公共交通活性化の先進事例として注目を集めている京都丹後鉄道(WILLER TRAINS株式会社)の取り組み。地方鉄道では導入が遅れているキャッシュレス決済も既に導入されています。
本鉄道では、Visaカードのタッチ決済と専用アプリを使ったQRコード決済の2種類の決済方法が併用され、お好みの方法で利用することが可能です。
今回は、日本三景「天橋立」を代表とする”海の京都”の観光地を結ぶ宮津線を、起点の西舞鶴から豊岡まで途中下車しながら、2つの決済方法を使って乗車、その使い勝手を体験してみました。
概要
Visaタッチ決済
VisaカードのICチップを使った非接触式決済で、”タッチ決済”と呼ばれている。券面に電波のような「非接触対応マーク」があるVisaブランドのカード(クレジット、デビット、プリペイド)があれば、特に入会等の手続をすることなく利用可能。
詳細は以下のリンクを参照のこと。
QRコード決済
スマホの画面に表示させたQRコードを使った決済で、専用のアプリ『mobi Community Mobility』をインストールの上、クレジットカードを登録する必要がある(デビットカードは不可)。カードブランドはVisa,Master,JCB,Amexが利用可能。
2022年3月よりQR定期券のサービスも開始された。通勤は1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、通学は更に12ヵ月定期もあり、通勤定期はアプリ上でクレジットカード決済にて簡単に購入できる(通学定期は通学証明書とカード決済同意書が必要なため、駅窓口での手続きとなる)。定期区間外の乗り越し精算も自動的に行われるため便利だ。
詳細は以下のリンクを参照のこと。
丹鉄宮津線の旅
西舞鶴から天橋立、与謝野へ
京都から山陰本線、舞鶴線経由で西舞鶴に到着。ここが京都丹後鉄道宮津線の起点だ。
駅舎は前面ガラス張りの斬新なデザイン。地震が来たらちょっと怖いかもしれない。
建物自体は複合施設になっており、1階には観光案内所などがある。JRの乗り場は2階だが、京都丹後鉄道(以下「丹鉄」と略)の乗り場は1階の隅っこの方にある。
11:37の豊岡行きに乗車。最初はQR決済で乗車してみることにする。すでに専用アプリをダウンロードの上、クレジットカードの登録も済ませてある。
改札口にある乗車用のコードリーダーにかざしてみるが、なぜかエラーになってしまう。何度かトライしてみたが上手くいかず、設定が悪いのかもしれないと色々いじってみた所、何とか読み取り完了となった。エラーになった理由は不明で、改札の係員氏も首を傾げていた。
ホームでしばらく待つと、入換で227D豊岡行となる車両が入線してきた。ここ西舞鶴には丹鉄の車両基地(西舞鶴運転区)があり、同社の車両・乗務員運用の拠点となっている。
入場後のアプリ画面は下の通り(QRコード部分は加工してあります)。
なお、無人駅・無人時間帯での乗り降りは、車内に設置された車載リーダーにかざす。こちらはVisaカードとQRコードのリーダーが一体になっている。
さて、列車は西舞鶴を定時で発車。着席乗車率は10%程度か。今日は土曜日のため旅行者が多い印象。やはり人気は海が見える進行右側の席だ。
有名な絶景スポットの由良川橋梁を通過。まるで海の上を列車が走っているような感じ。
列車は宮津で小休止後、最初の目的地である天橋立に到着。改札口にてQRコードを降車用のコードリーダーに読み込ませた、つもりであったが間違えて乗車用のリーダーにかざしてしまった。特にエラー音等が無く自分では間違いに気付かなかったが、改札の係員氏に呼び止められて発覚、改めて降車用のリーダーにかざし、降車処理が終了した。
降車後のアプリ画面は下の通り。
天橋立は言わずと知れた日本三景の一つで、国の特別名勝に指定されている。以前、傘松公園まで歩いて行ったことがあるが、今回は時間も限られていたので駅周辺のみの散策となった。ハマナス自生地にて美しいハマナスの花を発見。
天橋立駅に戻り、再びQRコードにて入場。13:18発豊岡行229Dに乗り二駅目の与謝野で下車する。
加悦鉄道資料館訪問
この駅はかつて加悦鉄道線という小さなローカル私鉄が発着、総延長僅か5.7kmのミニ鉄道であったが、残念ながら1985年に廃線となった。終点の加悦駅跡地付近に「加悦鉄道資料館」があり、旧加悦駅舎や同鉄道で使用されていた貴重な機関車、客車などが保存されている。
ちなみに加悦鉄道線が接続していた国鉄時代は丹後山田という駅名で、三セクの北近畿タンゴ鉄道(現在は資産保有会社)への移管時に野田川に改称、更にWILLER TRAINSへの移管に伴い現在の駅名となった。
せっかくなので加悦まで足を延ばしてみることにする。駅前を発着する丹後海陸交通のバスに乗り約25分、「丹後ちりめん」発祥の地として隆盛を極めた旧加悦町中心部に到着。駅があった敷地は現在与謝野町役場加悦庁舎となっており、資料館はそのはす向かいにある。
当資料館の目玉は国重文に指定された国鉄123号・加悦鉄道2号機関車。1873年に英国ロバート・スチーブンソン社にて製造され、官営鉄道大阪~神戸間(現東海道本線)開業時に使用された機関車である。日本国内に現存する3番目に古い機関車とのこと。
マッチ箱のような小さな古い客車も保存されている。立派な上家が建てられ、大切に保存されていることが分かる。
実は、これらの車両は大江山鉱山駅跡にあった「加悦SL広場」にて保存・公開されていたが、同施設の閉園に伴い、紆余曲折の末、2022年4月に当資料館に移設されたもの。このあたりの経緯はウィキペディアの記事に詳しく書かれているので以下リンクを参照のこと。
旧駅舎の中には加悦鉄道に関するあらゆる資料が展示されており、非常に充実している。同鉄道で使用されていたタブレット閉塞器が可動状態で保管され、使い方を知っている人は実際にタマを取り出すことができる。
じっくり見学した所で、再びバスに乗り与謝野駅に戻る。なお、残念ながらバスはVisaタッチ決済、QR決済とも使用不可。
与謝野から豊岡へ
15:31発豊岡行233Dに乗車。今度はVisaカード決済にて乗車してみることにする。
使い方は改札口に設置されたカードリーダーにかざすだけ。SuicaなどのICカード乗車券と同じ感覚で利用できるので便利だ。
やや遅れて233Dが到着。学生が多く車内はやや混雑している。
列車は丹後半島の”付け根”を横断。各駅に停まりながら終点豊岡を目指す。天橋立以西は海が見える区間は無いが、かぶと山~久美浜間では美しい久美浜湾が木々の隙間から見える。線路脇の草木が除伐されていればもっと景色を楽しむことができるのだが、お金的にもマンパワーの面でもそのような作業をする余裕がないのかもしれない。鉄道事業者にとって除草、支障木伐採は悩みの種の一つだ。
右手にJR山陰本線の線路が近づくと、終点豊岡に到着だ。2022年6月現在、豊岡で丹鉄からJRに直通する定期列車は無いが、両社の連絡線は健在で、信号ルート的にはJR1番線と3番線に発着可能。レールのサビ落としのためであろうか、朝の下り615Dと折り返し1682D(久美浜から特急はしだて2号)のみJR1番線を使用するダイヤとなっている。
2分ほど遅れて豊岡到着。乗車時に使ったVisaカードをリーダーにタッチして改札口を通過する。
Visaタッチ決済による乗車履歴は、QUADRAC株式会社が運営する「Q-move」というサイトで会員登録をすることにより確認可能。
感想
公共交通におけるキャッシュレスといえば、やはりSuica、ICOCAに代表される交通系ICカードが主流となっているが、これはコストの面で地方の鉄道・バスにはハードルが高い仕組みであり、その代替手段として、現在丹鉄が導入しているQRコード決済とVisaタッチなどのクレジットカード類非接触決済が今後普及してくるであろう。
今回この2種類の決済方法を実際に使い比べてみて、前者のQR決済、後者のカードタッチ決済とも一長一短があると感じた。
前者は一回乗車の他に定期券、回数券が利用でき、またアプリ上で利用履歴が簡単に確認できるメリットがある一方、デメリットとしてはまずスマホの所持とクレジットカードの登録(デビットカードは不可)が前提であること、乗・降車時にアプリを起動しQRコードを表示する手間がかかること、スマホの電源が切れた場合利用できないことなどが挙げられ、また今回の利用では読み取りの不安定さもやや気になった。
後者は対象カードを所持していれば簡単・気軽に利用でき、クレジットカードのみならずデビットカードやプリペイドカードも使えるのがメリット、デメリットとしては一回乗車のみ対応という点が挙げられる。
そもそも、キャッシュレス化の意味としては、利用者の利便性向上や事業者側の現金取扱コスト・リスクの低減といった効果が一般的に期待できるが、それ以上に、公共交通においては従来の紙チケットでは不可能であった戦略的なプライシングの実現が可能となる。例えば、携帯電話料金のように基本料に相当する定額徴収する部分と、利用量に応じて追加徴収される部分に分ける、いわゆる「二部運賃制」の導入が考えられる。更に交通モード・事業者の枠を超えて運賃制度を”普遍化”することにより、公共交通全体で”使えば使うほどトクになる”仕組みを構築することができる(車両購入コストという莫大な”定額固定費”があるクルマは正にそれ)。
そのためには、やはり決済方法の統一が前提条件となる。改札通過速度の面で、高速通信が可能なFeliCa技術を採用した交通系ICカードが今後も主流であることは変わりないため、ゆくゆくはこの方法に一本化されるべきではあるが、当面はこの丹鉄の事例のように様々な決済方法がしのぎを削りながら併存していくことになるであろう。
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