【提言】公共交通の革新に向けて

ホントに使いやすい?日本の公共交通

同じ駅なのに別々に分かれている切符売り場・改札口。自社のことは詳しいが他社の情報がほとんどない案内表示。事業者ごとに何本もポールが林立するバス停。

交通モード間、事業者間に”カベ”が立ちはだかる我が国の公共交通。これが万人にとって使いやすい、真に人々のために役立つ交通のあり方といえるであろうか。

崩壊寸前の地方公共交通

地方公共交通の衰退が止まらない。国土交通省の資料によると、2000年から2016年までの間に、全国で37路線・754.2kmの鉄軌道が廃止された。また、2007年から2016年までの間には、全国で一般路線バスが11,796km廃止となった(これは全国のバス路線営業キロ合計の約2.8%を占める)(*1)。

JR北海道の例を持ち出すまでもなく、この傾向は更に強まっている状況である。

廃止の原因は、輸送人員の減少による経営状況悪化によるものが大半であろうと思われる。

ではなぜ輸送人員が減少するのか。確かに、少子高齢化や人口減少といった構造的な要因もあるが、それと合わせて輸送分担の変化によるものも大きいと推測される。

全国の鉄道と自動車の旅客輸送分担率を見ると、鉄道は1975年度38.1%→1985年度35.3%→2009年度25.4%と推移しているのに対し、自動車は同年をそれぞれ61.5%→64.4%→74.4%と推移している(*2)。この傾向は特に地方部において著しく表れている。いわゆる「モータリゼーション化」の進展である。

どうして自動車との競争に負けるのか

自動車の利便性は高い。いつでも好きな時に、ドアtoドアの移動が可能である。

一方、公共交通は、時間的な制約(運行時刻にあわせなければならない)、位置的な制約(駅・バス停等に出向かなければならない)など、自動車にくらべて利便性に大きなハンデがある。

このことから、自動車の利便性が低下する大都市部を除き、公共交通は圧倒的に不利な状況にあるのは確かだが、それ以前の問題として、果たして我々公共交通は、”本気”で自動車と同じ土俵の上で競争する姿勢があるのだろうか。

交通問題研究家の上岡直見氏は次のように指摘している(*3)。

「自動車は、利用者にとって1つでもメリットがあると、環境面や安全性で社会的なネガティブがいかに大きくても、その利用が選択される。・・・・・逆に公共交通は、利用者にとって1つでも利用上の抵抗があると、環境面や安全性で社会的な優位性がいかに大きくても、選択されなくなってしまう。」

公共交通衰退の根本原因

では、我々公共交通に携わる者(経営者・従業員・行政)は、人々が抱く”利用上の抵抗”を無くす努力をしているといえるか。

例えば、ある観光客が、”A”から”B”を散策してから”C”まで行こうとする。

★自動車・・・カーナビに目的地を設定するだけで自動的に連れて行ってくれる
★公共交通・・・ルートは? 運賃は?? 時間は??? 誰に聞けばいいの????

確かに、それぞれの交通事業者は基本的には自社のことのみ専念し、連絡運輸等で密接な関係がある場合を除き、別の事業者のことまで気に掛ける必要はない。これは全く持って常識的な考え方である。

しかし、交通の本質は”ネットワーク”にある。ネットワーク外部性を無視して交通が適正に機能することはありえない。いうならば、利用者にとって、どこの交通機関をどの会社が経営しているかということは関係ないのである。道路でいうと、農林道・市町村道・県道・国道・高速自動車国道と種類があり、管理者も様々であるが、ドライバーはいちいち道路管理者を意識して運転するだろうか。

個々の任意のルートは、旅客流動的にはそれほど大きくないのかもしれない。また、一人の人にとっては稀にしか発生しない需要であるかもしれない。しかし、その稀な一度でも、公共交通の利用に対して抵抗を感じてしまうと、上岡氏の指摘通り人々は公共交通から容易に離れていってしまう。

また、ネットワーク外部効果の面からも、公共交通が便利に使えるルートを増やさないと、公共交通全体の底上げには繋がらない。

筆者はこのような問題を「制度的バリア」と呼んでいる。

もう一つのバリアである「物理的バリア」の解消については、体の不自由な方の利用に対応するためのエレベーターの設置やホームこう上などの方策が積極的に採られている。

しかし、バスを含め、交通事業者相互間では、ダイヤも不便、運賃制度もバラバラ、きっぷも別々、旅客案内も別々と、制度的なバリアがきわめて多いが、その解消についてはほとんど考慮されてきていないのが現状ではないか。

結論として、特に我が国の公共交通は、自動車との競争において未だに同じ土俵にすら上がっていない状況である言わざるを得ない。

交通の本質

公共交通ネットワークの問題、いわゆる「制度的バリアフリー」については、多くの交通学者により提起されている。

横浜国大教授の中村文彦氏は、「・・・路線間、軌道系とバス、公共交通と道路などといったところまでを含んだ総合的な体系化はあまりみられない。少なくとも、路線間あるいは軌道系とバスの総合的な体系化は、利用者の利便性向上のために必要である。このような体系化が進まない理由のひとつは、異なる事業者間の調整において費用負担の問題が発生するからであろう。何か相手方の事業者のために負担しているような認識をしてしまうと話が進まなくなる。事業者間の連携を調整することが、双方の事業者にとって増収となることを動機付けるべき」と共著で述べている(*4)。

例えばドイツでは、多くの地方で、その地域の交通事業者が協同で運輸連合を組織し、運賃制度や旅客案内を統一して分かりやすい公共交通システムを構築している事例があるが、残念ながらわが国の公共交通はそのような動きはあまりない。

その大きな要因として、わが国の公共交通はまがりなりにも「営利事業」として成り立ってきた経緯があり、各事業者の行動誘因は個々の営利追及がまず第一にある中で、一見して自分だけが損するようなことはしたくない、という極めて短絡的な意識がそれぞれの事業者で働いているからと推測される。

近年の地方公共交通衰退で「営利事業」として成り立たなくなってきている現状でも、その状態がナッシュ均衡として維持されてしまっているのである。パレート非効率であるにもかかわらず。

この状況から脱却するためには、交通事業にかかわるすべての人が、大局的な見地に立って”大きな力”を出す必要がある。

近年は自治体が中心になって、公共交通活性化の施策がなされているが、実際に効果が上がっている事例は少ないと思われる。その原因は、ネットワークの重要性をほとんど認識していないからではないか。ただ単に電車やバスを走らせても全く意味がない。

ネットワークの鍵は“普遍化”にある。自動車やインターネットが爆発的に普及した大きな理由は、徹底した普遍化にあると考えられる。つまり、誰もが、あらゆる方向に向かって、統一した明確なルールに従って、わかりやすく、容易に利用できる状態をつくることである。

どうすれば良いか

では、公共交通で普遍化を実現するためにどうするか、段階に応じて様々な方策があると思われるが、とりあえずは第一段階として以下の項目が考えられる。

①統一した路線番号、駅コードの設定

②あらゆる交通機関を包括した”統一路線図”の作成

③ICTを活用した包括的な利用・乗り継ぎ案内

④事業者間、交通モード間の物理的な乗り継ぎ改善

⑤乗車券の共通化、共通IC乗車カードの導入推進

この中でカギとなるのは、共通IC乗車カードの導入推進であろう。これは単に人員削減や小銭要らずの利便性向上にとどまる話ではない。

最も革新的なのは、現在の化石のようない古い旅客営業規則の枠組みを破壊する可能性を秘めていることである。すでに関西の一部私鉄ではポストペイ方式の導入が実施されているが、これは普通乗車券・回数券・定期券などといった既成の運賃制度の根本を覆す動きであり、このような施策は紙の乗車券では不可能である。これはSuicaの開発者の一人、JR東日本の椎橋章夫氏も同様の指摘をしている(*5)。

将来的には、例えば携帯電話料金の課金のように、月締めで、公共交通の総乗車距離に対し設定されたプランで課金されるような仕組みの導入が良いかもしれない。乗れば乗るほどトクになるような仕組みが、公共交通”全体”の利用促進につながる。

むすび

クルマは確かに便利だが、これはいつでも好きなときに自動車を利用できる物理的状況にあることと、その人が安全に自動車を管理できる資格と能力を持っている、という前提においての話である。

一方、公共交通は前述したような種々制約があるが、自動車を運転できない子供やお年寄り、外国人、障害者など、あらゆる人が利用可能な開かれた交通手段である。これは、近年世界で提唱されている「交通権」の哲学と合致する。

更に、エネルギー問題、環境問題、都市問題等々、交通がかかわるべき課題は多い。

健全で持続可能な交通を実現するために、今こそ”公共交通の革新”が必要であると思う。

 

※引用・参考文献

(*1)地域公共交通に関する最近の動向(国土交通省総合政策局公共交通政策部)(https://www.mlit.go.jp/common/001134509.pdf)

(*2)国土交通省 統計情報(http://www.mlit.go.jp/statistics/details/tetsudo_list.html)

(*3)新・鉄道は地球を救う(上岡直見著 交通新聞社)

(*4)都市再生 交通学からの解答(国際交通安全学会ほか編 学芸出版社)

(*5)Suicaが世界を変える(椎橋彰夫著 東京新聞出版局)