【2022年5月】上田電鉄別所線・上田市路線バスQRコード決済を体験

公共交通におけるキャッシュレス決済は、JR東日本の「Suica」に代表される交通系ICカードが主流となっていますが、システム導入・維持に莫大なコストがかかることから、地方ローカル鉄道・バス路線への普及が進まない状況にあります。

一方、買い物などではQRコード決済が普及しており、公共交通の世界においても一部で導入が始まっています。

上田市では、2020年10月から官民連携のもと、QR決済システムを活用した公共交通キャッシュレス化の実証実験が開始されました。本格的な変動運賃制での導入は全国で初の取り組みであるとのことです。

当初はバスから、2021年5月20日からは上田電鉄別所線でサービスが開始となりました。2022年3月31日をもって実証実験は終了しましたが、引き続き翌4月1日より各参加事業者により本運用が開始となっております。

今回は、その使い勝手を確認するため体験利用してみました。

概要

スマホにアプリをインストール、簡単な登録を行うことで、誰でも気軽にQRコード決済で電車・バスに乗車できるサービスである。

各種機器及びアプリは、上田市の隣、長野県坂城町にある電子機器メーカー、有限会社和晃が開発。IT大手の株式会社デジタルガレージが展開する「クラウドペイ」の決済規格を応用した。従業員数僅か30名足らずのの地元中小企業が開発したシステムを活用した取り組みに、全国から注目が集まっている。

利用路線・サービス等は以下の通り。なお、この情報は2022年5月現在のものであり、サービス内容等は変更される場合があるため、実際に利用される際は各社サイトでご確認下さい。

利用可能な路線

事業者 利用可能な路線
上田電鉄 別所線
上田バス 菅平高原線
真田線(渋沢線)
傍陽線
豊殿線
久保林線
信州上田医療センター線
アリオ上田線
塩田線
西丸子線
信州上田レイライン線
上田市街地循環バス(赤バス・青バス)
千曲バス 祢津線
室賀線
青木線
鹿教湯線
武石線
東信観光バス 中仙道線
丸子線

他に、別所温泉入浴施設「あいそめの湯」入館や、松本市の市街地周遊バス「タウンスニーカー」の乗車にも利用可能。

利用可能なサービス

クレジットカードによるポストペイ(後払い)乗車、10%のプレミアが付くプリペイド乗車券によるSF乗車が便利。通勤・通学には定期券もアプリ上で購入・利用できる。

事業者 利用可能なサービス 備考
上田電鉄 ポストペイ乗車 クレジットカード紐づけが必要
SF乗車 事前にチャージが必要、利用金額10%増し
1・2回乗車券 乗車前または乗車中に購入する
定期券
バス各社 都度乗車 降車後に決済
ポストペイ乗車 クレジットカード紐づけが必要
SF乗車 事前にチャージが必要、利用金額10%増し
定期券 上田バス久保林線、信州上田レイライン線、市街地循環バスは利用不可
片道定期券 上田バス久保林線、信州上田レイライン線、市街地循環バスは利用不可
※ポストペイとは、クレジットカード精算にて後日運賃を支払うこと。
※SFとは、ストアードフェアといい、事前に前払い(プリペイド)された金銭的価値のこと。
 

決済方法

以下の決済方法が利用可能。なお、定期券の購入はPayPay、d払い及びクレジットカードのみ対応。

(アプリ画面加工転載)

対応する運賃種別

小児運賃、障がい者割引運賃は、出場読み取りの前に係員にその旨を申告することで適用される。大人通常運賃との複数人同時利用にも対応。

通学定期券を購入する場合は、通学証明書等の利用資格情報をメールで送る必要がある。

アプリの便利な機能

アプリには列車、バスのロケーションシステムがあり、運行状況をリアルタイムで確認することができる。また、各社の時刻表・運賃、沿線観光情報サイトへのリンクがある。

バスロケーション
(アプリ画面転載)

その他

QRコードが印刷された紙カード式のプリペイド乗車券も発売されている。小児・障がい者割引専用のカードもある。券面に固有のID番号が記載されており、これを控えておくことで万が一紛失してしまった場合には再発行が可能となる場合がある(事業者により取り扱いが異なる)。

上田電鉄別所線に乗車

まずは使ってみる

起点は北陸新幹線、しなの鉄道線との接続駅、上田駅。上田城城主、真田氏の家紋である「六文銭」をあしらった外観が印象的だ。

上田駅

上田電鉄別所線の乗り場は、しなの鉄道線の線路をまたぐ自由通路に面した橋上駅。もともとは地平駅で、現在のしなの鉄道線3番線付近に別所線の乗り場があったが、北陸新幹線建設に伴う大規模な構内改良により現在の姿となった。

上田電鉄駅舎

改札口は自動改札機は設置されていないため、昔ながらのステンレス製の「改札ラッチ」がある。

改札口

フレームの上には入場用及び出場用それぞれQRコードの読み取り装置が取り付けられている。もともと実証実験としてスタートしたため、簡易的な設置方法だ。

入場用読み取り装置

前述の通り、あらかじめスマホに専用アプリ「TicketQR」をダウンロードの上、新規登録を行っておく必要がある。初期登録は生年月日と電話番号を入力するだけなので簡単。

アプリを起動し「かざす」画面で表示された「共通後払い」のQRコードを読み取り装置にかざす。読み取りの反応は早いが、画面を裏返しにしてかざすため位置が合わないと読み取り不良になってしまうことも。

「履歴」画面で利用履歴を確認できる。利用中の場合は下の表示となる。

利用中の画面
(アプリ画面転載)

クレジットカードとの紐づけを行っていない場合は、降車までに運賃の決済を行う必要がある。乗車中に決済を行うという方法は中々斬新なアイデアだ。

決済は「サービス」画面で「チケット購入」をタッチ、あとは画面の指示通りに操作していく。

決済入力画面
(アプリ画面転載)

今回はPayPayで決済したが、車内で”ぺいぺい”というおなじみの決済音が鳴り響き、他の乗客から注目を集めてしまい、ちょっと恥ずかしい思いをした。

決済終了後「かざす」画面に戻り、左にスワイプすると下の画像のような表示になる。”1回限りの回数券”を購入したという扱いだ。この”回数券”が今利用中のものに使えるのか否か、この画面からはちょっと分かりにくい。

終着駅の別所温泉で下車。こちらも木製のラッチに読み取り装置をくくりつけた簡易的なスタイル。

別所温泉駅改札口

出場用の読み取り装置にさきほど車内で購入した”回数券”のQRコードをかざす。無事出場処理が完了し、下の画面表示になる。利用履歴を見ると、出場記録が表示されるが、金額は何故か0円となっている。

出場後の利用履歴
(アプリ画面転載)

なお、車内にも読み取り装置が設置されている。乗車口には整理券発行機の上に、降車口には運転台後方に設置されている運賃箱の上につけられている。

乗車口読み取り装置
降車口(運転台後ろ)の読み取り装置

下車時にトラブル発生

レトロな別所温泉駅舎

別所温泉からの帰路は、事前に決済(チケット購入)を済ませてから乗車してみることにする。途中駅の下之郷で下車するため、別所温泉から下之郷までの1回”回数券”を購入する。決済の手順はさきほど車内で行った方法と同じだ。

下之郷で下車し、ホームにある読み取り装置にかざしたところトラブル発生。誤って回数券画面ではなく「共通後払い」のQR画面で読み取らせてしまったため、購入した”回数券”を消費せず、未払い扱いとなってしまった模様。

駅係員に相談する。係員氏も仕組みを良く理解していないようで、係員用の携帯端末でいろいろ操作を試みるもだめ。システム開発会社もGW期間中なので連絡がつかない。

未払いの決済処理を行わない限り使えなくなってしまっているため、やむを得ず再度PayPayで決済を行い、続けて”回数券”の出場処理を行う。これでシステム的には初期状態に戻ったわけだが、運賃を二重に支払っている状態のため1回分を現金で返金していただいた。

下之郷駅

クレジットカード紐づけが便利

このシステムが本領を発揮するのは、やはりクレジットカードと紐づけした場合であろう。

下之郷で入場する前にカード番号等の登録を行い紐づけ完了。あとは何もしなくてもクレジットカードで勝手に決済されるはず。

下之郷駅の読み取り装置

下之郷から起点の上田まで乗車。上田で出場すると、すぐに決済済の画面となった。これは便利だ。

出場後の画面
(アプリ画面転載)

上田バスに乗車

次は路線バスに乗ってみることにする。

上田バス「アリオ上田」行きに乗車。中扉の乗車口にある整理券発行機の上に読み取り装置が設置されている。コンパクトな読み取り装置なので設置は容易だ。

バス乗車口

乗車中の画面表示は別所線と同じ。

上田駅近くのショッピングモール「アリオ上田」で下車する。今回はテストなので1区間のみの乗車となった。

降車口の読み取り装置は運転席横にある運賃箱の上に設置されている。

バス降車口

クレジットカードと紐づけされているため、すぐにカード決済となった。この便利さは先ほどの別所線と同じ。

バス下車後の画面
(アプリ画面転載)

感想

低コストで導入可能なキャッシュレス乗車システムとして脚光を浴びつつあるQR乗車システム。財務的な制約が大きい地方の中小事業者にとっては、IC乗車券に代わる、キャッシュレスという時代の要請に答えるツールとして選択肢の一つとなろう。

今回利用したサービスは、機能的には様々なニーズに答えることができる可能性を秘めているが、専用アプリの完成度はまだまだ発展途上であると思う。特に「共通後払い」とそれ以外の利用方法で利用者を誤認させるような仕組みは改善すべきである。

また、今後このサービスを広範囲に展開していくには、サポート体制の充実も欠かすことができない。

公共交通が生き残っていくためには、利用者に交通モードや事業者の”壁”を感じさせることのない、シームレスな移動環境を構築することが必須であり、これが公共交通を真に活性化していくための鍵となる。その重要なファクターとして、運賃の共通化は欠かすことができない。

今回の取り組みは上田市が主導する実証実験でのスタートであったが、このような取り組みは得てして事業者側は受け身である事が多い。要はすぐに”カネ”にならない面倒なことはあまりしたくないという本音が見え隠れする。本サービスも自社サイト上で積極的に内容を周知しようとしていない事業者もいる。

しかし、行政は自らが管轄する範囲のみで責任を負うため、どうしても閉ざされた”世界”での取り組みとなってしまう。しかし、人の移動は行政の枠の中だけで完結することはあり得ない。交通の”連続的”な普遍性を実現していくためには、事業者が主体となって”連続的”な連携を積み重ねていくしかないのである。

厳しい言い方であるが、今のほとんどの交通事業者にはその気概と覚悟を感じることはできない。

関連リンク

上田電鉄
上田バス
有限会社和晃

鉄道コム

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