元小田急ロマンスカーの長野電鉄「ゆけむり」号で北信濃をのんびりする旅をご紹介します。今回は土休日運転の観光案内列車「特急ゆけむり~のんびり号~」に初乗車。展望席から、線路・施設の様子をややマニアックな視点で観察してみました。
基本情報
概要
長野電鉄長野線は、JRとの接続駅「長野駅」から、温泉の街「湯田中駅」を結ぶ延長33.2kmの鉄道路線である。
沿線には、”蔵の街”須坂、栗菓子と北斎で有名な小布施など、北信濃を代表する観光地がある。また、終点湯田中は、”スノーモンキー”と呼ばれ世界的にも有名な、ニホンザルが温泉に入る「地獄谷野猿公苑」の玄関口となっており、外国人観光客も非常に多い。
2005年には、小田急ロマンスカー「HiSE」を譲り受け、翌年から特急「ゆけむり」号として、また、2010年にはJR東日本の成田エクスプレス(N’EX)用車両”253系”を譲り受け、翌年から特急「スノーモンキー」号として運行を開始。長野電鉄の看板車両となっている。
今回乗車した「特急ゆけむり~のんびり号~」は、「各駅停車と同じくらいの運転時間でゆっくりと走行する観光案内列車」というコンセプト。美しい車窓と沿線の名産品の車内販売を楽しめる、主に土休日に運行される臨時列車だ。
事前の予約は不要で、有効な乗車券と特急券で乗車可能。
なお、一部の車両が、車内で信州産ワインと食事を楽しみながら旅ができる「北信濃ワインバレー列車」となる日がある。こちらは事前予約制。
日帰り「楓の湯」クーポンについて
終点の湯田中駅に隣接の日帰り温泉施設「楓の湯」入館料と、湯田中までの往復乗車券がセットになったクーポンが発売されている。

上の写真の通り、長野~柳原間を乗車駅とした「Aタイプ」は大人1,860円、小人930円。楓の湯入館料と特急料金は込み(2019年10月1日から、大人2,070円、小人1,040円に値上げ)。
単純に往復した場合の運賃(長野~湯田中間往復大人2,320円)より安くなっており、しかも往復200円分の特急料金も含まれているという非常におトクなクーポンだ。ただし、楓の湯の入館が必須なことと、途中下車不可(下車前途無効)、更に発売当日限り有効な点に注意。
旅行記
長野電鉄長野駅の様子
長野電鉄の長野駅は、地方都市では珍しい地下駅となっている。北陸新幹線開業に合わせて改築されたJR駅舎の目の前に地下入口がある。

地下1階に切符売場と改札口がある。コンコースは広々としており、待合用のベンチが並んでいる。
この駅が地下化されたのは1981年。内装はほとんど手が加えられていないため老朽化が目立つ。

券売機前のスペースには、「駅中商店」と呼ばれる物販スペースがあり、沿線の農産物や三陸の海産物等が販売されている。

コンコースは隣接する「ながの東急百貨店」の地下食品売り場と、同じく隣接の「長野東急REIホテル」の地下とそれぞれ直結しており、特に雨天時等の移動に便利な構造となっている。
おすすめなのが、このホテル地下にあるうどん、そば店「しなの」。特製の”肉そば”、”肉うどん”が癖になるおいしさなので、ぜひお試しいただきたい。



きっぷ売り場で、前述した”日帰り「楓の湯」クーポン”を購入。改札口に向かう。
さて、これから乗る「特急ゆけむり~のんびり号~」は13:06の発車。その4分前には定期特急列車が発車するため、この時間帯のLED発車標は特急しか表示されない珍しいパターン。

ホームは地下2階にある。エスカレーター(上り)とエレベーターが設置されており、バリアフリー化が図られている。
ホームはこれまた珍しい光景が。2編成ある「ゆけむり」が長野駅のホームに同時に2本並んでいる。

真ん中のホーム2番線は、13:02発A特急、左側1番線は13:06発のんびり号。A特急はやや乗車率が高いが、のんびり号は残念ながら空席が目立つ。
1番線ホームの入口に係員が立っていて、先発のA特急の旅客が誤乗しないよう案内している。また、特製の案内板が掲出されている。

車内の様子
列車は4両編成。前後には自慢の”展望席”がある。前から3両目の3号車は、「ワインバレー列車」専用車両となっていた。前述した通り、車内で信州産ワインと食事を楽しむことができる。なお、2号車はワインバレー仕様の座席となっているが、この日は自由席として開放されていた。



運良く後部展望席に座ることができた。三連休の中日にも関わらず非常に空いている。

この車両、かつて流行した床面が高い”ハイデッカー”仕様となっている。展望席は出入り口と同レベルだが、奥の客席部分が2段高くなっている様子が分かる。
なお、現在は交通バリアフリー法により、このような構造の車両はほとんど作られなくなった。

長野~須坂
隣2番線から、定期のA特急が発車していった。その後を追って、のんびり号も13:06定時発車。

列車は隣の市役所前を通過し、最初の停車駅、権堂に到着。地下化当時から塗装がされていないのか、内壁が黒ずんでいて痛々しい。


次の善光寺下を通過すると、列車は地上区間に出る。地方私鉄では珍しいこの地下区間は、地上線時代の懸案事項であった渋滞と市街地分断の解消を目的として国、県、市の支援で建設された。旧線路敷は、大部分が「長野大通り」の道路敷に転用されている。


列車は長野市の住宅街をゆっくりとした速度で進む。
車内放送で、乗務員による沿線の案内が行われる。まずは善光寺の話題。列車内から見ることはできないが、7年に1度の「御開帳」には大変多くの参拝者が訪れると案内があった。

信濃吉田を通過後しばらくすると、珍しい三重立体交差区間を通過する。上に北陸新幹線、下にしなの鉄道北しなの線に挟まれた空間を長野電鉄の線路が走る。ちょうど頭上を新幹線列車が駆け抜けていった。


列車は次の朝陽で停車。客扱いの無い運転停車だ。上りの各駅停車が発車していく。長野から続いてきた複線区間はここまで。


線路設備を観察すると、所々”枕木”が従来の木製から”PCマクラギ”に交換されている。おそらく劣化した部分のみ順次取り換えているのであろう。同社が公表している「2018鉄道安全報告書」によると、PC化率は26.5%とのこと。
ちなみに、やや専門的な話になるが、レール、まくら木(カタカナで”マクラギ”とも表記)などは「取替資産」と呼ばれ、固定資産として計上した取得価額の50%までしか減価償却ができない代わりに、部分的な取替の場合その交換コストを”修繕費”として損益計算上の費用に計上することができる。
しばらくして、女性のアテンダントによる車内販売がやってきた。長野名物の”おやき”と小布施の栗菓子、ジュースが売られている。
おやきとりんごジュースを購入。おやきはナスが丸ごと入っていて旨い。


列車は柳原を通過し、千曲川を渡る「村山橋」に差し掛かる。

この鉄橋は全国でも珍しい鉄道道路併用橋となっている。隣の道路は国道406号線。現在の橋は2009年に架け替えられたもの。
橋の中央付近で一旦停車し撮影タイム。延長837.8mと案内された。左手遠くにこれから向かう「高社山」が見える。


後方には鉄橋越しに飯縄山の雄姿が見える。「北信五岳」の一つに数えられている。

村山で運転停車ののち、二番目の停車駅、須坂に向かう。

13:31、”蔵の街”須坂に到着。かつては製糸業が盛んで、土蔵造りの立派な倉庫が多く残り、観光資源となっている。また、江戸時代の豪商、田中家の所蔵品を展示する「田中本家博物館」は、駅からやや離れているがおすすめのスポットだ。
下の写真の左手の新しい車庫があるところは、2012年に廃止された屋代・須坂間を結んだ「屋代線」の線路があった場所。

1982年まで、上野発の信越線急行列車が屋代から長野電鉄に乗り入れ湯田中まで直通していた。
須坂駅は、車庫が併設されている長野電鉄の中枢駅。ホームは3面あり、1~5番線まである。ただし、屋代線が廃止された現在、使われているのは主に1~3番線のみ。
長野電鉄の”番線”の振り方は、JRとは逆で駅舎から一番遠い線路が1番線となっているのが面白い。
須坂~信州中野
13:32、須坂定時発車。すぐに左手に長野刑務所が見えてくる。車内放送で刑務所が紹介されるのは、全国でもここだけであろう。


列車はリンゴ畑の中の直線線路を走る。沿線は全国有数のリンゴの産地。春は可憐な白い花、秋には真っ赤に実ったリンゴの中を電車が駆け抜けていく。
定期特急列車はこの区間、最高速度の90km/hで疾走するが、この”のんびり号”はその名の通りのんびり走っていく。

北須坂を通過。この駅は1990年代前半の列車大増発時に行き違い可能駅となったが、近年列車交換設備が撤去され、いわゆる”棒線駅”に戻ってしまった。

やがて列車は速度を落としていく。築堤を登ると松川鉄橋。最徐行で通過する。放送で松川の特徴が詳しく紹介された。特徴的な茶色の河原が良くわかる。

列車は栗と北斎の街、小布施に到着。ここで6分間停車する。通常使われなていない駅舎よりの3番線に入線する。

ここ小布施は北信濃観光の定番。おすすめは何と言っても北斎の浮世絵が数多く展示されている「北斎館」。北斎の作品はヨーロッパの印象派画家に多大な影響を与えたとされ、外国人にも人気の観光スポットになっている。そのため、駅舎内は英語表記が目立つ。

1番線には上り各駅停車が到着。大勢の観光客が乗車して行った。この車両はかつて東京メトロ(当時は「営団地下鉄」)日比谷線で活躍していた”3000系”電車。

13:48小布施発車。構内には往年の名車、”りんご電車”こと2000系電車が静かに眠っている。

小さな無人駅、都住を通過すると、右手山麓に「岩松院」というお寺が見えてくる。ここは北斎の天井画で有名な所。小布施観光の定番の一つ。
しばらくは畑の中を走る。この辺りは山々が良く見える場所。天気が良ければ「北信五岳」が良く見える所であるが、この日はあいにくの天気で雲の中に隠れてしまっていた。

桜沢、延徳と小さな行き違い可能駅を通過。延徳は北須坂と同時に交換設備が設置された。直線側の線路が上下列車とも通過可能な、いわゆる”一線スルー”という構造の駅。

巨大なキノコ工場の間をすり抜け、列車は信州中野駅に到着。かつては飯山市の木島を結ぶ「木島線」が分岐していた要衝駅。木島線が廃線となった現在も、当駅折り返し列車が多数設定されている運転上の重要駅となっている。

信州中野~湯田中
信州中野定時発車。左側に木島線の廃線跡が残り痛々しい。元々は木島線が”本線格”。屋代~須坂~信州中野~木島間は「河東線」と称され、同社で最初に開業した路線であった。また、長野~須坂間は「長野線」、信州中野~湯田中間は「山の内線」という支線の扱いであった。

しばらくすると、大きく右にカーブする。場内信号機が線路からかけ離れたとんでもない場所にあるのが面白い。

信州中野から終点湯田中の間は、当線きっての急勾配区間。最急40‰の勾配を登っていく。右へ左へ急曲線が続き、車輪をきしませながら走る。

放送で、列車の先頭と最後尾で約2mの高低差があると案内された。”40‰”とは、1000m進むのに40m高さが上がるということなので、「ゆけむり」号の編成長58mに置き換えると高低差が約2.3mとなる計算。
途中の信濃竹原で、行き違いのため運転停車。何がやってくるのかと思ったら、先ほど長野駅で4分前に発車したもう一つの「ゆけむり」号が早くも折り返してやってきた。こちらは1時間以上かけて進む道のりを、あちらは44分で走ってしまう。同じ運賃、特急料金であるが、価値観の違いの問題。

信濃竹原を出るとすぐに夜間瀬川の鉄橋を渡る。村山橋では遠くに見えた高社山が間近に。

架線柱が面白い構造になっているのを見つけた。同社では昭和初期の電化時からの鉄柱が多く使われているが、下の写真の様に一部カットされて外側に補強の鋼管が付けられている鉄柱が急曲線箇所に数本ある。サイズの大きな車両(スノーモンキー?)の車両限界に支障してしまうため、このような措置がとられたのであろうか。

警報機も遮断機も無い踏切、第4種踏切が点在している。この種の踏切は最も危険性が高いため全国的に問題になっているが、警報機等の踏切保安装置の設置は莫大なコストが掛かるため、地方鉄道にとっては非常に頭の痛い課題だ。

夜間瀬、上条とホーム1本の小さな駅を通過する。急勾配の途中にあるが、駅構内自体も緩やかな勾配になっている。

勾配を登り切り、14:15終点の湯田中に到着。長いようであっという間の1時間9分であった。



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