列車とバスを乗り継いで温泉へ。昔ながらの旅のスタイルで今も活気付く、「にっぽんの温泉100選」ランキング1位、群馬県の草津温泉に行ってみました。気になる乗り継ぎの様子と、不動の人気を誇るその魅力を探ってみたいと思います。
基本情報
日本を代表する温泉場、草津温泉。年間約300万人もの観光客が訪れ、観光経済新聞社「にっぽんの温泉100選」ランキングにおいて16年連続で1位に輝いている。
公共交通でのアクセスは、吾妻線長野原草津口駅で列車から路線バスに乗り継ぐ方法が代表的である。同駅へは上野駅から平日2往復、土休日3往復の直通特急列車が運転されている。
長野原草津口駅から草津温泉バスターミナルまでの区間は、JRバス関東による一般バス路線「草津線」が運行されている。概ね30分~1時間毎に便があり、列車との接続が重視されている。
また、新宿駅・東京駅から直通の高速バス(JRバス関東)が平日11往復、土休日12往復運転されている。所要時間は列車利用よりかかるが、直通であること、運行本数の多さ、運賃の安さで人気がある。
その他の高速バス路線として、京王、東急、上田バス共同運行の渋谷・草津線が日3往復、広栄交通の大宮・高崎・草津線が日1往復、さくら観光の東京鍛治橋・草津線が日1往復運行されている。
観光用の一般バス路線として、軽井沢駅、白根火山・万座温泉とを結ぶ便がある。なお、2019年9月現在、白根火山・万座温泉方面は草津白根山の噴火警戒レベルが”2”となっているため運休中。
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旅行記
特急草津31号に乗車
今回の旅の起点は、群馬県の高崎駅。JR東日本高崎支社で発売中の「ぐんまワンデー世界遺産パス」を購入する。
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この”パス”は、群馬県内のほとんどのJR線、私鉄線が、2,200円で普通列車1日乗り放題となる非常にお得な切符。特急列車には別途特急券を購入すれば乗れるほか、長野原草津口駅-草津温泉間のJRバスにも乗車できる。春~夏季限定で近年毎年発売されており、今年2019年は9月30日までの発売・有効。
10:20発の特急「草津31号」長野原草津口行きに乗車する。始発駅上野から定時でやってきた。
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列車は651系7両編成。この車両はかつて常磐線の特急「スーパーひたち」で使用されていたもの。経年30年が経過し、やや老朽化が目立ってきている。
自由席は上野寄り2両。3連休中日なので混雑しているかと思ったが空いている。乗車率は5割程度か。
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10:20、高崎定時発車。しばらくは新潟へ向かう「上越線」を走る。
車窓右手には雲がかかった赤城山が望める。「上毛かるた」で読まれている『裾野は長し赤城山』の特徴が良くわかる。
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渋川で多数下車。この列車、名前の通り草津温泉へのアクセスが主目的で運転されているが、新幹線が止まらない駅への都市間輸送の側面も持っている。
渋川定時発車。「上越線」を離れ、支線の「吾妻線」に入っていく。
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この吾妻線は、渋川から群馬県嬬恋村の大前まで結ぶ全線単線のローカル線。最高速度は85km/h。先ほどまではあまり聞こえなかった”ガタンゴトン”という継ぎ目音が鳴り響く。
列車は利根川支流、吾妻川に沿って走っていく。金島を通過すると、上越新幹線の巨大な高架をくぐる。
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祖母島を通過すると、初めて吾妻川を渡る。この川は上流域にある草津温泉、万座温泉等の強酸性の温泉や硫黄鉱山の影響により、かつては魚も棲まない”死の川”と呼ばれていた。
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中之条でも多数下車。ここ中之条町は吾妻郡の中心部で、草津に次ぐ群馬の名湯、四万温泉の玄関口でもある。
岩島を通過すると、八ッ場ダム建設に伴い新線に切り替えられた区間に入る。右側に旧線跡を望みながら、吾妻川を渡ってトンネルに入る。
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途中駅川原湯温泉は通過。湖の底に沈んでしまう温泉街とともに高台に移設された。
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列車は再び吾妻川を渡り、旧線跡と合流すると終着駅長野原草津口に滑り込む。11:22定時到着。
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駅舎は近年改築され、コンパクトだが機能的になった。1番線が行き止まり式に変更され、ホームから改札口、駅前までバリアフリー化されている。
駅前のバス乗り場には既に3台ほどバスが待機していた。駅の案内放送でバスの発車時刻が案内され、次の発車は11:31発とのこと。改札口は精算する旅客でかなり込み合っている。なお、Suica等のIC乗車券は利用可能。
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バスに乗り継ぎ草津温泉へ
改札口を出ると、バス乗り場への案内表示が掲出されている。時間がないので急いでバス乗り場に向かう。
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バス乗り場は駅舎を出て左手すぐの場所。乗り継ぎの利便性が優先された構造となっている。
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おなじみツバメマークのJRバスが並んでいる。駅舎側のバスホームは奥から1~3番乗り場、通路を渡ったホームは4~5番乗り場。
バスの乗客は奥の1番乗り場のバスから順に案内される。満席になったバスから正規の出発時刻前に発車していく。先ほど先頭にいたバスはすでに発車済み。11:29に2番目、続いて3番目のバスが発車していく。
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筆者は最後尾のバスに乗った。草津温泉までの運賃は大人片道700円であるが、Suica等のIC乗車券で支払が可能。最後の乗客を待ち、定刻より3分遅れの11:34発車。
このバスは各停便だ。先行した便はおそらく臨時の急行便であろう。
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バスは国道145号線旧道から大津交差点で右折し国道292号線へと進む。さほど急坂ではないが、徐々に高度を上げていく。
道路は渋滞もなく順調に流れている。道が狭い草津町内中心部に入ると、程なくして草津温泉バスターミナル2階に入る。11:57、ほぼ定刻通り到着。
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このバスターミナルは草津を象徴する場所”湯畑”の近くにあり、非常に便利な位置にある。建物正面には「草津温泉バスターミナル」と書かれているが、入口ドアは「草津温泉駅」と表示されている。
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おすすめ観光スポットを巡る
バスターミナルから湯畑までは徒歩で3~4分程度。連休中とあって大勢の観光客でにぎわっている。湯畑周辺は近年改良工事が行われた。かつて狭い駐車場があった場所が、人が集まる広場に生まれ変わっており、より魅力的なスポットになっている。
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一角にある白旗源泉は立派な屋根が架けられている。ふつふつと硫黄泉が湧き出る。中に”ほこら”があり、禁止の注意書きがあるにも関わらず多くの賽銭が投げ込まれていた。銅製の10円玉が真っ黒に腐食されてしまっている。最強なのがアルミ製の1円玉。
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西の河原方面へと歩いてみる。この「西の河原通り」は温泉街の中で最もにぎやかな通り。両側に飲食店や土産物屋が建ち並んでいる。温泉卵や串焼き、饅頭など、まさに”買い食い天国”だ。
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湯畑から徒歩10分ほどで、西の河原公園の入口に出る。園内至る所から温泉が涌き出るこの公園も人気の観光スポット。入口付近には片岡鶴太郎美術館がある。
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日帰りでも入浴を楽しみたい人には、日帰り温泉施設がおすすめ。温泉街の至る所に共同浴場があるが、多くが観光客入浴禁止なので敷居が高い。気軽に入れる施設は、湯畑隣の「御座之湯」、西の河原公園内にある「西の河原露天風呂」、湯畑から東に5分程歩いた所にある「大滝乃湯」。また、一部の旅館でも日帰り入浴可能。
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隠れスポットとしておすすめしたいのが、「大滝乃湯」の近くにある「国土交通省 品木ダム水質管理所」。なぜダム管理所?と思われるかもしれないが、ここで行われていることは下流域の人々にとって極めて重要な事。前述した通り、吾妻川が”死の川”にならないように行われている。
入場は無料で、「大滝乃湯」の駐車場敷地から入ることができる。
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極めて酸性度の強い温泉水を中和するために、石灰石を溶かした水の注入が行われている。中和設備から”白い水”が投入される様子を見ることができる。
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中和の効果を実際に確かめてみることもできる。管理事務所に申し出ると、PHを測ることができる「ペハノン紙」がもらえる。測定場所が整備されているので、そこで測ってみると中和の前後でPH値が大きく異なるのが分かる。PHの測定をしたのは何十年振りだろう。理科の授業以来だ。
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温泉という天然資源により、観光産業で多大な恩恵を受ける一方で、このような負の側面があることを学ぶのも重要であると思う。
草津温泉バスターミナルの様子
2時間ほど観光してバスターミナルに戻った。次の発車時刻は14:30。少し時間があるのでターミナル内の様子を見学してみる。
建物は3階建てになっており、1階が飲食店と観光案内所、2階がバスホームと切符売場など、3階が町立の図書館になっている。1階コンコースには、かつて軽井沢と草津を結んでいた、草軽電気鉄道の電気機関車の模型が展示されている。
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なお、建物脇には大小コインロッカーがあり、日帰り客やチェックアウト前後の観光に便利だ。
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エスカレーターで2階に上がってみると、バスホーム出入口脇に出る。左手が切符売場と待合室。ここではバス乗車券の他に、JR全線の乗車券、指定券などが購入できる。
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一角には売店と喫茶コーナーがある。その名も「BAHNHOF(バーンホフ)」。ドイツ語で”駅”という意味。
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バスの発車時刻表が掲げられている。主役はJRバスだが、その他の事業者の便もすべて記載されている。ここから「たまプラーザ」まで直通で行けるとは驚きだ。
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白根火山、万座温泉方面へ向かうバスは、前述した通り噴火警戒の影響により全便運休となっていた。本来なら、白根火山で長電バスに乗り継ぐことにより、志賀高原を通って長野電鉄湯田中駅まで行くこともできる。
かつて、国鉄バス、草軽交通、長野電鉄の共同運行で、ここから湯田中駅まで直通バスが走っていた時代もあった。人気の観光周遊ルートとして、大変多くの観光客でにぎわった路線であった。
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ホームに出てみる。乗り場は1番から8番まであり、バスが斜めに突っ込む形。1番から4番までが長野原草津口行、5番が高速バス、6、7番が白根火山・万座、軽井沢方面、8番が巡回バスの主な各乗り場となっているが、運行状況により弾力的に運用されている様子。
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帰路
さて、これから乗車するバスは14:30発であるが、多客の場合は臨時便が随時運転される。ホームにいる係員が、混雑が予想されるので早めの臨時便に乗るよう案内している。
4番乗り場に停車していた臨時便が14:10頃一足先に発車していった。その後、14:15高崎経由大宮行の広栄交通便が発車していく。この便は知名度が低いのかガラガラだ。
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次第に乗客がホームに押し寄せてくる。あっという間に大行列が発生。
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はるか後方に並んでいると、6番乗り場にJRバスがやってきた。乗客が降りた後、ホーム係員がバスの運転士に確認。臨時便としてすぐ折り返すとのことで、これに乗るよう案内された。
補助席まで使い満席になったところで、臨時急行便として14:22発車。途中無停車で長野原草津口駅に14:45到着。ほぼすべての乗客が列車に乗り継ぐ。
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次の列車の発車は15:43発特急草津4号上野行き。その後15:50発普通列車高崎行が続く。特急の指定席はすでに満席とのことなので自由席を狙う。改札口手前のベルトパーテーションで区切られた区画が自由席の列。発車まで1時間近くあるが、すでに大勢の乗客が並んでいた。
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後続の定期便が到着し、構内は混雑してくる。
なお、当駅は切符売場の窓口は無く、券売機は指定券券売機、短距離券売機各1台あるのみ。混雑することもあるので、列車の切符は草津温泉バスターミナルで購入した方がよい。
車内整備が終了し、15:09に乗車開始。自由席車は2両あるので、余裕で座ることができた。
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感想
輸送力が大きい列車と、柔軟な運行が可能なバス。両者の長所を生かした見事な連携が図られていた。長野原草津口駅の構造も、階段やエレベーターを使うことなくフラットな移動で乗り継ぎ可能となっており、大変便利だ。
また、今回久々に草津温泉を訪れて感じたことは、他の観光地に比べて日本人の比率が比較的高いという印象である。もちろん外国人観光客もたくさんいたが、特に日本人の若者のグループが多かったのが意外に感じた。
その理由は何であろうかと考えたが、湯畑や西の河原など、特徴的な”インスタ映え”するスポットが多いということもあろうが、友人と歩きながら気軽にいろいろなものが食べられれる、”食べ歩き”、”買い食い”の楽しさが魅力的なのではなかろうか。
今後は、公共交通によるアクセスを更に充実させていくことも重要であろう。今回利用したような首都圏からの単純往復は現在でも比較的便利であるが、バス路線の縮小により、近隣の観光地を絡めて周遊するにはクルマが必須となってしまっている。
クルマが主体の交通は環境負荷が大きく、また時には深刻な渋滞が発生し住民の生活にも大きな影響が出る。公共交通の充実により”持続可能”なツーリズムのモデルとなる取り組みを期待したい。
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