【2019年9月】長野電鉄「ゆけむり」号で行く、湯田中・渋温泉の旅(その2)

長野電鉄で行く、北信濃の名湯、湯田中温泉と渋温泉を巡る旅です。湯田中駅に隣接する日帰り温泉施設「楓の湯」と、風情ある渋温泉の様子をお伝えします。

【2019年9月】長野電鉄「ゆけむり」号で行く、湯田中・渋温泉の旅(その1)
元小田急ロマンスカーの長野電鉄「ゆけむり」号で北信濃をのんびりする旅をご紹介します。今回は土休日運転の観光案内列車「特急ゆけむり~のんびり号~」に初乗車。展望席から、線路・施設の様子をややマニアックな視点で観察してみました。基本情報概要長野電鉄長野線は、JRとの接続駅「長野駅」から、温泉の街「湯田中駅」を結ぶ延長33.2kmの鉄道路線である。沿線には、”蔵の街”須坂、栗菓子と北斎で有名な小布施など、北信濃を代表する観光地がある。また、終点湯田中は、”スノーモンキー”と呼ばれ世界的にも有名な、ニホンザルが温泉に入る「地獄谷野猿公苑」の玄関口となっており、外国人観光客も非常に多い。2005年には、...

旅行記(続き)

湯田中駅の様子

湯田中駅は、長野電鉄山の内線(現長野線)の終着駅として1927年(昭和2年)に開業。湯田中・渋温泉郷と国際観光地「志賀高原」の玄関口として古くから賑わってきた。

ホームでは、”スノーモンキー”で知られる地獄谷野猿公苑の猿のパネルが乗客を出迎えてくれる。

地獄谷野猿公苑のパネル

現駅舎は1955年に建てられた。木造だがモダンなファサードが目を引く。駅舎の左隣には、長電バス湯田中営業所が併設されている。駅前広場にはタクシーの営業所があり、客待ちのタクシーも常駐。まさに交通の要衝となっている。

湯田中駅舎
駅前広場

駅舎内は近年改装されたようで、コンコースにはおしゃれなカフェコーナーがある。海外からの客が多いので英語表記が目立つ。

改札口
カフェコーナー「GOEN DELI」
”町民食”が売られている

待合室の中には観光案内所がある。以前は、ここに駅そば店があったと記憶しているが、今は無い。

前述したように、駅舎にバスの営業所が併設されており、コンコースからバス乗り場が直結されている。列車とバスの乗り継ぎを前提とした構造だ。

バス乗り場への連絡口
バス乗り場

連絡口にはスロープが設けられ、バリアフリー化が図られている。

列車バス連絡口

正面にバスのきっぷ売り場がある。便数はさほど多くはないが、外国人も多い観光路線らしく案内が充実している。

きっぷ売り場

ここを発着するバスは、志賀高原方面に向かう系統と信州中野駅-上林温泉間他の短距離系統がある。また、南海バスとの共同運行による、大阪行の夜行高速便もある。

志賀高原案内図

かつては、ここから草津温泉、長野原(現長野原草津口)駅とを結ぶ、長野電鉄、国鉄バス、草軽交通の共同運行による直通バスが発着していた。現在は白根火山で乗り換える必要がある。

なお、11月~4月頃の冬期間は渋峠が閉鎖となるので、ほたる温泉(硯川)までの運行となる。また、2019年9月現在、渋峠-草津温泉・万座温泉間は草津白根山の噴火警戒に伴う交通規制のため運休中となっている。

志賀・草津・軽井沢地域 広域観光路線図
運休の告知

さて、駅に隣接している日帰り温泉施設「楓の湯」に向かうことにする。駅舎側からは線路を挟んで反対側に位置しているので、ぐるっと迂回する必要がある。

線路の終端部を見る。かつてはホーム2面・線路2線の構造で、ホーム有効長を確保するため、3両編成以上の列車はスイッチバック形式で発着していた。2006年の「ゆけむり」号運行開始に伴い現在の形に改良され、スイッチバック運転は解消されている。

構内を望む
かつて踏切があった場所

日帰り温泉施設「楓の湯」

「楓の湯」は、駅開業当時に建てられた旧駅舎の隣にある。”駅前温泉”を名乗っているが、ほぼ”駅ナカ温泉”といっても良い位置。

案内サイン
旧駅舎と「楓の湯」
「楓の湯」入口

大人の入館料は300円。タオル等を持っていなくても安心、タオル160円・バスタオル570円で販売されている。

券売機

今回は、長野駅で購入した”日帰り「楓の湯」クーポン”を持っているので、追加料金なしに入館できる。長野~湯田中特急往復と入館料がセットで大人1,860円(通常2,820円)と、大変おトクなクーポンだ(2019年10月1日から、大人2,070円に値上げ)。

日帰り「楓の湯」クーポン

男女別浴の浴場はそれほど大きくはないが、露天風呂も設けられている。洗い場にはシャンプー、ボディーソープが備えられている。

源泉温度が非常に高いため加水されてはいるが、湯は掛け流しで塩素臭はない。

成分表

三連休の中日ではあるが、入湯した14:30時点ではそれほど混雑していなかった。夕方以降の時間帯の方が混むかもしれない。

受付には物販コーナーがあり、グッズやお土産品などが販売されている。冷たい「リンゴバー」は風呂上りに食べたい。

物販コーナー
リンゴバー

建物の前はちょっとした公園スペースとなっている。一角には足湯があるので、入浴しなくても気軽に温泉を楽しむこともできる。

足湯

隣の旧駅舎に寄ってみる。内部は待合室兼案内スペースになっている。昔の改札口からはホームが望める。

旧駅舎内部

入口ドア横には、地元小学校の児童が制作した、スキー板を再利用したベンチが置かれている。説明が英文でも書かれているのが素晴らしい。

スキー板のベンチ
説明文

渋温泉・湯田中温泉街を散策

時刻はまだ15時すぎ。少し足を延ばして渋温泉に行ってみることにする。

ここ山ノ内町内には、湯田中、渋、安代、上林、角間といった各温泉が点在しており、「湯田中渋温泉郷」と総称されている。

湯田中駅から渋温泉までは徒歩でも行けるが、ちょうどバスの便があったので短区間だがバスに乗ってみる。

湯田中駅に戻ろうとしたとき、ちょうど長野からの特急列車が到着。元JR東日本「成田エクスプレス」車両の「スノーモンキー」号だ。

特急「スノーモンキー」

湯田中駅は特急からの下車客であふれていた。各旅館の送迎係が”のれん”を掲げて迎えにきている。温泉場の駅らしい光景。

特急が到着した湯田中駅

この特急列車に接続して、志賀高原方面に向かうバスが発車する。発車時刻は15:20。

志賀高原方面行のバス

この便は「奥志賀高原」行であるが、途中の「志賀高原山の駅」停留所にて、「渋峠」行の便に接続している。

きっぷ売り場で乗車券を購入。硬券ではなく軟券であった。「渋温泉」までの運賃は210円で、200円券と10円券を組み合わせて発行される。

バス乗車券

発車時刻が迫ってきたのでバスに乗り込む。ノンステップの日野ブルーリボンシティハイブリッド。山岳観光路線ではあるが都市型の車種が使用されている。

バス乗り口
車内

”ジリジリ”という発車ベルを合図に、15:20定刻に発車。バスは高台にある駅から一旦下り、夜間瀬川沿いを登っていく。

夜間瀬川沿いを進む

15:25、「渋温泉」停留所に到着。湯田中駅からの乗客はたったの4名であったが、全員ここで下車。空っぽになったバスは志賀高原へと向かって行った。

「渋温泉」バス停
志賀高原に向け発車していく

バス停から温泉街までは徒歩すぐ。細い路地へと入っていく。なお、渋温泉街の最寄バス停は、ここ「渋温泉」と一つ先にある「渋和合橋」の2箇所。すべての便は両停留所を経由するが、旅館により近いバス停が異なるので要確認。

「渋温泉」バス停から温泉街へ

一角には懐かしい”瓶コーラ”の自販機が。栓抜きと王冠入れのバケツがぶら下がっていてユーモラス。

瓶コーラ自販機

木造の旅館が建ち並ぶ温泉街は、非常に風情がある。道路もブロック舗装されており、雰囲気を盛り上げている。

案内図
温泉街

国の登録有形文化財に指定された「金具屋斉月楼」が見える。全国各地の名建築を参考に、昭和初期に建てられたもの。映画「千と千尋の神隠し」の”湯屋”のモデルではと言われているとのこと。

金具屋斉月楼

温泉街には、「一番湯」から「九番湯」まで、9箇所の共同浴場、いわゆる”外湯”があるが、温泉街のちょうど真ん中に「九番湯 大湯」がある。共同浴場は住民と渋温泉宿泊客のみ利用できるが、この「大湯」だけは一般日帰り客も利用可能(500円)。

九番湯 大湯

ここは面白い構造で、浴場は半地下にあり男女の入口は建物を挟んで反対側にある。浴場の上には道祖神が置かれている。その名も「お湯掛け和合道祖神」、温泉の成分により茶色に変色している。

大湯の上にある道祖神

温泉街は途中で鉤状に曲がっている。細い路地は雰囲気満点。”お猿の温泉”のマンホール蓋がかわいらしい。

細い路地
マンホール

温泉街の一番奥には、立派なお寺がある。その名も「温泉寺」。また、「大湯」向かいから長い石段を昇ると、芭蕉の句碑がある「薬師庵」という寺もある。

温泉寺

なお、地獄谷野猿公苑は、渋温泉街から更に2.4km先に位置している。歩くと30分以上はかかるので、時間に余裕を持って行きたい。

地獄谷野猿公苑への道

温泉の楽しみの一つと言えば、おなじみ”温泉饅頭”。ここ渋温泉にも何件か菓子店がある。

温泉街の中心部にある、「西山製菓本舗」さんに寄ってみた。1個単位で販売しているので、気軽に食べ歩きができる。こしあんの素朴な蒸饅頭は懐かしい味。

西山製菓本鋪(許可を得て撮影)
饅頭

一通り散策したので、湯田中駅に戻ることにする。

帰路は徒歩。湯田中駅までゆっくり歩いて25分程度かかった。途中には足湯施設があり、一休みすることもできる。

足湯

駅の近くには湯田中温泉街があるが、こちらは渋温泉とは異なり、普通の商店街に近い雰囲気。

立派な建物の共同浴場「湯田中大湯」がある。「養遐齢(ようかれい)」と書かれた大きな額が掲げられている。幕末・維新時の医師「松本順(良順)」先生の書。ここ湯田中温泉を”長寿の湯”と褒め称えたそうだ。

湯田中大湯
「養遐齢」額

沿道には「湯田中温泉プリン本舗」という店があった。また、おしゃれなカフェも開店しており、渋温泉とは異なる雰囲気を目指している感じがする。

湯田中温泉プリン本舗

湯田中駅に戻ったのは17時前。次の列車は17:09発なので、少し時間がある。駅前広場にある、「JAPANESE DINING GOEN」という飲食店に寄ってみる。

オープンテラス席のあるモダンな建物。近年開店したのであろう。メニューは和食が中心だが、ドリンクのみでもOKとのこと。コーヒーを注文する。

JAPANESE DINING GOEN
オープンテラス席
「GOEN」にて

駅コンコース内にある「GOEN DELI」は姉妹店。このような魅力的な店舗は観光地としてのブランド力向上になるとともに、鉄道、バスの利用促進にも繋がると思う。

感想

発車時刻が迫ってきたので、ホームに向かう。帰路は各駅停車に乗車。信州中野で長野行に乗り換えとなる。

ホームに向かう

ホームにはステンレス製の2両編成の電車が停車している。この3500系電車は、営団地下鉄(現東京メトロ)日比谷線から移籍してきたもの。車端部にある製造銘板には「東急車輛 昭和38年」とある。東京オリンピックの前年、56年前に製造された車両だが、経年を感じさせない状態の良さである。

3500系電車
製造銘板
車内

17:09定時発車。乗客は10名程度とやや寂しい。無人の小さな駅に停車していく。

上条駅

信濃竹原で行き違いのためしばらく停車。ホームに降りてみる。この駅の駅舎は1927年(昭和2年)築の古い建物。

信濃竹原駅

17:30、信州中野3番線に到着。接続する各駅停車長野行は17:43発だが、まだ折り返し列車は到着していない。

信州中野駅到着

この駅は廃線となった「木島線」の接続駅であった。木島方面に向かっていた線路は錆びつき痛々しく残っている。出発信号機は消灯し、入換信号機のみ生きている。

木島方面
旧木島線用1番線ホーム

17:32、2番線に折り返しとなる長野行の列車が到着。元東急電鉄の8500系電車だ。

折り返し列車到着

1976年製で、こちらも製造から40年以上たった古い車両だが、同社の主力通勤電車として大活躍している。運転室扉には、鉄道友の会による「ローレル賞」受賞プレートが掲出されている。

18:30、長野に到着。JRに乗り換えて帰途に就いた。

長野駅

感想

前の週の三連休に草津温泉を訪れたが、賑わいを見せるそちらとは対照的に、今回訪問した湯田中・渋温泉は同じ三連休にもかかわらず閑散としていた。

山ノ内町の統計を見ると、1990年には223万人もの入り込み客数があったが、直近の2018年は119万人と、約半数まで落ち込んでいる。志賀高原、北志賀高原を含めた客数も同様に半数以下に下がってしまっている状況だ。

その中で、近年期待されているのが外国人旅行者、いわゆる「インバウンド」客の動向である。2005年から2014年までの10年間で、山ノ内町内の外国人宿泊客数が約6.5倍に伸びているとのこと。魅力的な観光地にブラッシュアップするとともに、更なる情報発信が求められるであろう。

交通の面でも変革が必要である。外国人だけでなく、我々日本人にとっても、日本の公共交通は事業者毎に運賃制度や旅客案内上で”世界”が異なり、分かりにくいのが現状だ。

かつては、上野から湯田中まで直通の急行列車が運転され、また近年までJR線と長野電鉄線をまたがる通しの乗車券も発売されていた。この「連絡運輸」は事務手続き上非常に手間がかかるので、利用者の減少とともに廃止も止む無しの面もあるが、交通ネットワークの”普遍化”からは明らかに逆行している。

現代はIC乗車券の時代。カード1枚で利用者の壁を意識することなく”自由”に公共交通を利用することができる。導入には莫大なイニシャルコスト、ランニングコストがかかるが、交通ネットワーク”普遍化”のために、その普及に官民挙げて取り組む必要があると思う。

公共交通が主な移動手段となる外国人だけでなく、大都市圏の住民はコストがかかるクルマを持たない人も増えている。今後は公共交通の改善・充実が観光活性化のカギの一つになっていくであろう。

関連リンク

長野電鉄

長電バス

鉄道コム

コメント

タイトルとURLをコピーしました