北京西駅から、四川省の省都、成都まで、日本では過去のものとなりつつある寝台車の旅を楽しみました。途中、ループ線が2箇所ある中国屈指の山岳路線、宝成線を通っていきます。車窓や車内の様子など、旅の模様を詳しくお伝えします。
乗車データ
項目 | データ |
---|---|
事業者 | 中国鉄路総公司(CR) |
路線 | 京広、石太客専、太中、包西、隴海、宝成線 |
列車番号 | T7 |
乗車駅 | 北京西 |
降車駅 | 成都 |
出発時刻 | 予定16:40 実際16:40 |
到着時刻 | 予定翌20:36 実際翌20:43 |
所要時間 | 28時間03分 |
乗車クラス | 軟臥車 |
はじめに
旅の起点は、巨大な駅舎がそびえたつ北京西駅。ここから特快T7次、28時間の列車の旅が始まる。
今回、この列車に乗ってみることにした最大の理由は、中国でも有数の風光明媚な路線である、宝鶏と成都を結ぶ”宝成線”を日中走り抜ける列車であること。
中国で寝台車に乗るのは、実に20年振り。上海から西安、ウルムチ、隣国カザフスタンへと列車を乗り継いで旅をした時以来である。
当時は切符を買うのも一苦労であったが、今では日本にいながらネットで簡単に購入できる。時代は変わった。
航空機や高速鉄道が全盛の現在も昔ながらの客車列車が多く残る中国。日本では味わうことができない、長距離汽車旅を楽しみたい。
基本情報
北京-成都間の列車
北京と成都の間は、直線距離で約1,500km。航空機が便利な距離ではあるが、直通する列車も1日9往復走っている。
運賃、所要時間は列車種別・座席クラスにより正にピンキリ。下表にはある意味現代中国の”格差”が現れているとも言える。なお、運賃が特快より快速が若干高い理由は、後者の方が走行距離が長いためである。
表1 北京・成都間の列車運賃比較(片道大人普通運賃)(2019年8月現在)
列車種別 | 座席クラス | 運賃(中国元) | 運賃(日本円) | 所要時間 |
---|---|---|---|---|
高速 | 商務座 | 2,417元 | 36,255円 | 7時間45分(G89次) |
一等座 | 1,246元 | 18,690円 | ||
二等座 | 778.5元 | 11,677円 | ||
直達特快 | 軟臥 | 687.5元 | 10,312円 | 21時間28分(Z49次) |
硬臥 | 434.5元 | 6,517円 | ||
硬座 | 254.5元 | 3,817円 | ||
特快 | 軟臥 | 629元 | 9,435円 | 27時間56分(T7次) |
硬臥 | 399元 | 5,985円 | ||
硬座 | 236元 | 3,540円 | ||
快速 | 軟臥 | 689元 | 10,335円 | 28時間29分(K817次) |
硬臥 | 437元 | 6,555円 | ||
硬座 | 252元 | 3,780円 |
*1元=15円で計算*寝台は上中下段で若干運賃が異なる
T7次の概要
今回乗車したT7次列車は、始発駅北京西を発車すると、広州に向かう大動脈「京広線」を南下、石家荘で「石太客専線」に入り、山西省の省都太原に向かう。
太原からは、2011年に開通したばかりの「太中線」を通って陕西省綏徳で方向転換、「包西線」を南下し古都西安へ。
西安からは、中央アジア、ヨーロッパへと繋がるユーラシア・ランドブリッジ「隴海線」に乗り入れ、宝鶏から、秦嶺山脈を越える中国屈指の山岳路線「宝成線」に入り終着駅成都に向かう。
表2 T7次の停車駅及び時刻(2019年8月現在)
停車駅 | 到着時刻 | 発車時刻 |
---|---|---|
北京西 | - | 16:40 |
保定 | 18:00 | 18:04 |
石家荘北 | 19:30 | 20:03 |
太原南 | 22:15 | 22:22 |
吕梁 | 23:54 | 23:58 |
延安 | 3:01 | 3:06 |
西安 | 6:21 | 6:41 |
宝鶏 | 8:22 | 8:32 |
鳳県 | 10:41 | 10:43 |
両当 | 11:11 | 11:13 |
徽県 | 11:31 | 11:36 |
略陽 | 12:52 | 12:55 |
広元 | 15:37 | 15:46 |
綿陽 | 19:04 | 19:08 |
成都 | 20:36 | - |
列車の編成は、軟臥車(ソフトベッド)、硬臥車(ハードベッド)、硬座車(ハードシート)、餐車(食堂車)、行李車(荷物車)で組成された19両編成の客車。全区間電気機関車が牽引する。
客車及び客車乗務員の所属は成都局集团有限公司。
乗車体験記
北京西駅の様子
北京西駅に到着したのは12:40。まだ発車時刻まで4時間ほどある。乗車券はあらかじめ「Trip.com」で予約してあったが、乗車前に窓口で発券してもらう必要がある。
さっそく切符売場「售票处」に行く。各窓口は行列ができていたが、外国人用の英語窓口が空いていたので、そこに並ぶ。
予約番号とパスポートを呈示し、無事発券終了。並んでから5分もかからなかった。
保安検査を通過し、2階の待合室(候車室)へ。まだ発車まで時間が有り余っているが、寝不足なので少し休むことにする。
構内は老若男女で混雑している。日本の駅との大きな相違点として、待合室の多さがある。この駅はVIP用も含め13の大部屋待合室があり、その中に列車別の改札口がある。
各候車室に繋がる通路には、飲食店や売店がずらりと並ぶ。近代的で清潔な構内は、一昔前の中国の駅のイメージとは大きく異なる。
今回は、上級クラスの寝台「軟臥」を利用するので、専用の待合室「軟席候車区」を利用する資格がある。場所は「第1候車室」の一角にあった。
売店の脇に入口がある。受付等は無く、切符のチェックもない。自由に出入りできそうではあるが、明らかに一般待合室より空いている。
スタバでコーヒーをテイクアウトし、中に入って休息。睡魔に襲われ、しばしウトウトする。
発車時刻まで1時間を切ったところで、長丁場の旅に備え買い出しを行う。水や食料、トイレットペーパー(車内のトイレには無い)などを調達する。食料は基本的に車内で調達できるが、予備食としてある程度確保しておいた方が安心。菓子店で美味しそうな月餅が売られていたので、おやつ用に購入。
16時頃から改札が始まった。T7次の電光掲示がある5番改札口(検票口)は大行列。長距離列車だけあって、乗客は皆大きな荷物を持っている。
並ぶのも面倒なので、しばし待つ。
乗車
16:20頃、行列が解消されたので改札を通りホームへ。改札口は1番に変わっていた。
乗り場は”6站台”(ホーム)。列車は既に入線していた。深緑に黄色いラインが入る、いわゆる”緑皮車”カラーをまとっている。
客車の形式は25K型。1996年から2003年にかけて製造された、1世代前の中国国鉄主力客車だ。色は古めかしいが、エアコン付きの近代的な車内。運転最高速度は140km/h。
各号車のドアには乗務員が立っている。乗車券を見せて車内に入る。
車内設備
軟臥車は19両編成の客車の内、10号車の1両だけ。通路には絨毯が敷かれ上級感が漂う。客室はコンパートメントになっており、定員は4名。2段式のベッドがコンパートメント内の両サイドにある。
今回は残念ながら上段を割り当てられた。国鉄公式サイト「12306」や日本で予約可能なサイト「Trip.com」では、残念ながら上下の指定はできない。ネット予約では上段しか取れないという噂もあるが、真相は如何に。
上下両段ともベッド面から天井までの高さは十分にあり、座っても頭がつかえてしまうことは無い。
荷物収納スペースは、通路部分の天井裏にある。上段の利用者にとっては使いやすい位置だ。また、各ベッドには、読書灯と小さな網棚がある。
なお、コンパートメントは男女の区別は無い。老若男女だれが同室になるかは事前には不明だ。また、日本の寝台車のような仕切カーテンは無いので、室内でのプライバシーはほぼ無いと思った方が良い。
さて、気になるモバイル電源事情だが、この形式の軟臥車は、通路に3箇所のみコンセントがある。電圧は220V。各コンセントには2口差込口があるが、日本と同規格の2又Aタイプは上部の口のみ。下部は3又なのでそのままでは使用不可。無理やりプラグを突っ込んでいると、乗務員に怒られてしまう。
中国人もほぼ全員スマホを持つ時代。乗車するとコンセントの争奪戦が始まる。競争率は非常に高いので、28時間の長丁場を乗り切るにはモバイルバッテリーが必需品だ。
各車両にはトイレと洗面所が設置されている。軟臥車は洋式、その他の車両は中国式のトイレ。また、自由に使える給湯器も設置されている。お茶やカップラーメンを頂くときに必須である。
ちなみに、翌日宝成線内にて硬臥車と硬座車の様子も撮影してみた。特に硬座車は区間により非常に混雑し、通路やデッキで寝転がっている人もたくさんいた。
発車前に、乗務員が検札にやってきて、乗車券と引き換えに「換票証」が渡される。下車直前に、それと引き換えに乗車券が返却されるシステムだ。どの乗客がどこで降りるのか乗務員に管理されているので、夜中でも乗り過ごしの心配は無い。
さて、発車時刻が迫ってきた。長い長い旅の始まりだ。
コメント
中国鉄道の寝台車の上、中、下段の指定を,全国で切符売場窓口(切符プリンターありの代理店含む)を指定できます(ただし,指定希望の段余剩なし時不可)