広州から昆明まで、貴広客専線、滬昆高速線を経由する高速列車、G408列車に乗ってみました。実際には、東莞市の虎門駅から昆明南駅まで乗車しています。乗車時間は約7時間。途中、カルスト地形で知られる賀州、桂林など、風光明媚な車窓を楽しむことができます。
車内設備や車窓の紹介とあわせて、昆明南駅から昆明市内中心部を結ぶ昆明地下鉄の様子もお伝えします。
乗車データ
項目 | 列車 |
---|---|
乗車区間 | 虎門-昆明南 |
事業者 | 中国鉄路総公司 |
列車番号 | G408 |
車両形式 | CR400AF-A |
乗車時間 | 7時間02分 |
乗車クラス | 一等座 |
運賃 | 925.5元 |
基本情報
概要
広東省・広州と雲南省・昆明を結ぶ高速鉄道は、2019年12月現在、貴陽経由と南寧経由の二つの経路がある。
貴陽経由
列車番号の頭に”G”が付く列車。貴広客専線~滬昆高速線経由で、広州南駅と昆明南駅を6時間40分前後で結んでいる。
運転本数は1日5往復、そのうち1往復が香港西九竜駅発着、2往復が深圳北駅(1本のみ深圳坪山駅)発着の延長運転を行う。
南寧経由
列車番号の頭に”D”が付く列車。南広線~南昆客専線経由で、広州南駅と昆明南駅を8時間前後で結んでいる。
運転本数は1日13.5往復(昆明方面行14本、広州方面行13本)、そのうち2往復が”大理石”で知られる雲南省大理駅まで延長運転を行い、この列車のみ昆明市街中心部にある昆明駅にも乗り入れる。また、1往復はマカオ隣接の珠海駅を発着する。
運転時刻および運賃
運転時刻は以下サイトを参照のこと。
大人片道運賃は下表の通り(列車により安くなることもある)。
表 広州南・昆明南間の列車運賃比較(片道大人普通運賃)(2019年12月現在)
種別 | 商務座 | 一等座 | 二等座 |
---|---|---|---|
G列車 | 1642元 | 876元 | 535.5元 |
D列車 | - | 703元 | 439.5元 |
なお、上記高速列車とは別に、在来線を経由する一般の快速列車が1日3往復運転されている。運賃は格安だが所要時間は25時間以上。
虎門駅の様子
深圳空港から穗深城際鉄路で虎門北駅に到着した。なお、虎門北駅と虎門駅の乗り換え方法については以下記事を参照のこと。
https://shalis.net/2020/01/16/2020-01-vietnam3/
虎門駅は、広東省東莞市南部の虎門鎮にある駅。2011年12月、広州と香港を結ぶ広深港高速鉄路の部分開業に伴い開設された新しい駅である。
現在は、穗深城際鉄路、東莞軌道交通(地下鉄)及び市内路線バスとの乗り換え駅となり、東莞市の交通の要衝となっている。
まずはこれから乗車するG408列車の乗車券を入手しなければならない。日本から予約できる「Trip.com」で席は押さえてあるが、乗車するには紙の券を発券(中国語で”取票”)してもらう必要がある。
虎門駅の乗車券売り場(售票处)は改札口入口の裏側、高架下にある。中に入ると各窓口には行列ができていた。
窓口は01から08番まであり、”取票”窓口は02番。予約番号とパスポートを呈示して発券してもらう。なお、数台の自動券売機も設置されているが、こちらではパスポートでの実名登録ができないので、原則として外国人旅行者は利用不可。
発車時刻は12:47。改札開始はその10分前なので12:30頃までには乗車券を手に入れたい。現在時刻は12:00。この程度の列なら30分もあれば余裕だろうと思った。
しかし、中々列は前に進まない。現在はネットで予約し自動券売機で取票、更には”电子客票”(eチケット)で乗車というスタイルが定着してきているので、一般の中国人は有人窓口に並ぶ必要性が薄れてきている。それでも敢えて並ぶということは何らかのトラブルや相談事を抱えて来るパターンが多いので、一人一人の対応に時間がかかってしまう。
並び始めて20分後にようやく順番が回ってきた。発券自体は1分程で終了。同時に、予約済の次列車の分も発券してもらえた。チケットはいつもの青地紋の磁気券ではなく、”购票信息单”という感熱紙に印字された購入情報シートのみ。
早速駅構内へと入っていく。外国人は”人工通道”という有人検査ゲートを進む。ここでパスポートチェックが行われる。
保安検査後、改札口がある2階出発コンコースにエスカレーターで上がる。
2階コンコースは人だらけ。数分おきに発車する、各列車の改札を待つ人で一杯だ。天井から下がる発車案内標によると、G408列車の检票口(改札口)は”A”で、運行状況は正点(定時)との表示がある。
改札開始まで時間がある。座る場所はおろか、立っている場所も無いので、一旦出発コンコースから離れ、同じフロアの物販エリアへと避難する。
それにしてもこの虎門駅。比較的新しい高速鉄道の中間駅ということで、さほど利用者はいないのかと思っていたが、この混みようにはたまげた。恐るべし中国パワー。
構内にはコンビニやパン屋など、数店の店舗がある。これからの長旅に備えて少し買い物をする。
12:37、G408列車の改札が始まった。大混雑のA検票口に向かう。
ここでも外国人は有人のゲート(人口通道)を通過する。「铁路实名制快速检票机」という装置にパスポートをかざし、”乗車OK”のサインが出たらホームに向かうことができる。中国の鉄道は各旅客の身分証明書によって乗車管理され、もはや”切符”の存在は必要なくなりつつある。
エスカレーターでホーム階に上がる。乗車車両は15号車なので、足元の表示に従い進んでいく。
ホームは2面で線路が6線ある。中間の2線はホームが無い通過線。線路はコンクリート板にレールを敷く”スラブ軌道”と呼ばれる構造。この軌道や電車線(架線)を支持する可動ブラケット(支持金具)は日本のものとよく似ているので、もしかしたら日本製なのかもしれない。
ホームに着くと同時にG408列車が入線してきた。1日1往復ある香港直通列車だ。
車両は新型のCR400AF-A型電車「復興号」。今回は奮発して一等車にした。虎門から昆明南までの運賃は925.5元、日本円で約1万5千円ほど。
車内
客室
16両編成で、うち1・16号車の半室は商務座(ビジネスクラス)、1・16号車の半室と2・15号車は一等座、3~14号車は二等座となっている。
一等座の座席は2-2の横4列。雰囲気は新幹線のグリーン車とよく似ている。
シートはもちろんリクライニングシートで、かなりの角度で倒れる。足元には日本のグリーン車と同様、足置きが設置されている。
荷物棚には座席毎の空席情報サインがある。赤が予約済み、緑が空席。なお、一等、二等ともA席とF席が窓側席。どちらが右側か左側かは、同じ列車でも車両により異なるので何とも言えない。
シート真ん中の下部には、モバイル電源が設置されている。日本のAタイププラグもそのまま使用可能である。
二等座は3-2の横5列。こちらは新幹線の普通車に相当する。
車内サービス
中ほどの9号車には売店コーナーがある。弁当やスナック、飲料類を販売している。なお、ワゴンによる車内販売も行われており、更にシートにあるQRコードで専用サイトに接続、好きな商品を注文し自席まで運んでもらうシートサービスも行われている。
シートサービスは希望区間、時間帯も選べる優れものだが、利用にはSMS認証と電子マネーが必須なので、外国人には敷居が高い。
また、一等座の乗客には無料で水と菓子類のサービスがある。サービス担当の乗務員により、国鉄マークが入った特製の菓子箱が配布される。
車窓など
G408列車運転時刻表
駅名 | 到着時刻 | 発車時刻 |
---|---|---|
香港西九竜 | 12:05 | |
深圳北 | 12:23 | 12:27 |
虎門 | 12:45 | 12:47 |
広州南 | 13:04 | 13:07 |
桂林西 | 15:25 | 15:30 |
貴陽北 | 17:38 | 17:44 |
昆明南 | 19:48 |
虎門-広州南
虎門は12:47定時発車。当駅で接続する東莞地下鉄の電車が見える。
虎門という地名は珠江デルタの河口名の一つ。列車はすぐに珠江分流の一つ、獅子洋を河底トンネルで通過する。
左手に巨大な車両基地が見えると、広州市街地が近づいてくる。しばらくすると珠海から来た広珠城際線が合流する。高架橋によるダイナミックな線形がいかにも中国らしい。
13:01、列車は巨大な広州南駅に到着した。約1年前に訪れた駅たが、相変わらずの巨大さに驚かされる。
広州南で乗客が大きく入れ替わる。香港と昆明を結ぶ長距離列車であるが、広州までの区間客も非常に多い。
広州南-貴陽東
13:07、広州南を定刻に発車。一等座はほぼ満席だ。
しばらくして珠江の分流の一つ、三支香水道を渡る。
北京に向けて北上する京広高速線を右に分けて、列車は針路を西に向ける。広州-貴陽間は貴広客専線を走行するが、途中の肇慶東までは南寧に向かう南広線の線路と並行する。それぞれ別路線の扱いなので疑似複々線区間となる。
車窓は市街地から田園地帯に変わっていく。途中交差する立派な高架橋の線路は、貨物専用線の広珠線。やがて左手に珠江本流の西江を望む。
肇慶東駅を通過。広仏肇城際線が交差する。当駅で南広線と別れ北西方向へ、列車はいよいよ山間部へと入っていく。
トンネル区間が多くなるが、携帯の電波はほぼ常時繋がっている。この貴広客専線は2014年に開業した新しい路線。高速鉄道線ではあるが、最高速度は250km/hとやや控えめだ。線形は非常に良いので、揺れや振動はほとんど無い。
懐集を通過すると広東省を離れ広西チワン族自治区に入る。このあたりから、石灰岩が侵食されてできた、特徴的なボコボコ小山のカルスト地形が見られる。
14:24、賀州通過。在来線の益湛線との接続駅である。駅は市街地の北の外れに位置しており、ボコボコした変な形の山に囲まれている。駅から北東5kmの場所には「賀州玉石林」という景勝地がある。
長いトンネルを抜け、恭城を通過。すでに桂林市内に入っている。ラクダのコブの様な特徴的な山が印象的。
陽朔を通過。日本人観光客も多く訪れる陽朔中心部までは当駅から路線バスで1時間ほど。このあたりでは、これぞ”桂林”という風景が見られる。林立するタワーカルストがまるで山水画のようだ。
珠江の支流、桂林舟下りで有名な漓江を渡ると桂林市街地へと入っていく。
桂林駅方面への連絡線(桂北定江連絡線)を分岐すると、在来線の湘桂線をオーバークロスする。左手には巨大な車両基地が望める。
桂林駅方面からの連絡線(桂西桂北連絡線)が合流する。巨大な三角線が形成されており、各方面を結ぶ多彩な直通列車が設定されている。
15:12、桂林西に到着。時刻表上では15:25着なので、13分も早着だ。一体どのようなダイヤなのだろうか。当駅で降りる隣席の乗客が、もう着いたの?と驚いた顔で下車していった。
発車時刻は15:30。停車時間が長いのでホームに降りてみることにする。
ちょうどホーム反対側の線路から先発のCRH5G型が発車していった。
当駅はホーム2面、線路6面の典型的な中間駅の配線。ただし、北側に隣接して在来線の貨物駅が併設されているので、構内はかなり広く見える。
真ん中2線はホームの無い通過線。当駅構内の線路もスラブ軌道となっているが、こちらはドイツ式だろうか。
CR300AF-A型の先頭形状を観察する。非常にシャープな形だ。赤いラインがスピード感を演出している。この車両はCRH380A型の発展形で、源流にはJR東日本E2系1000番台がある。
15:29、1分ほど早発で桂林西を発車する。線路は再び山間部に入るが、先程までとは違い特異な地形は無くありきたりな風景が続く。
トンネルが続き、明かり区間はほんのわずかだが時折ハッとするような山村風景が現れる。
都匀東付近で、現在建設中の貴陽と南寧を結ぶ貴南客専線が見える。延長512km、最高速度350km/hのこの線は2023年に完成予定。
貴州省の省都、貴陽市街に入る。貴陽市は中国南西部に広がる雲貴高原の中の高原都市。冬の寒さは厳しいが、夏は比較的過ごしやすく避暑地として知られる。谷間の僅かな平地に都市が築かれたため、市内は複雑な地形となっている。
上海からやってきた滬昆高速線と貴開城際線が合流すると貴陽東を通過。貴広客専線はここまでで、当駅から昆明南までは滬昆高速線に乗り入れる。
次の貴陽北との間は非常に複雑な配線だ。成都に向かう成貴客専線 、重慶に向かう渝貴線が接続し、更に各路線間を結ぶ連絡線が入り乱れる。
17:41、貴陽北に到着。3分遅れだ。ここで大勢の乗客が下車する。一等座は乗車率2割程度になってしまった。
貴陽東-昆明南
17:46、2分遅れで貴陽北を発車。貴陽市は”森林都市”と呼ばれるほど森が多い。ビルの間に小山がたくさんある。
滬昆高速線は最高速度300km/h。先程までとは速度感が大きく違う。ただし、当線区内ではトンネル内は携帯電波が繋がらない。
ここ貴州省もカルスト地形が多い。
18:00を過ぎると日が暮れてしまい車窓を楽しむことができなくなってしまった。深い谷の北盤江は残念ながら真っ暗。
なお、途中の一部トンネル内では70km/hの徐行運転が行われる。当線開業後に手抜き工事が発覚し、安全のため速度を落とさざるを得ないとのこと。
徐行区間が終わると列車は再び最高速度で暗闇の中を疾走する。貴陽-昆明間、在来線列車では7時間以上もかかるが、高速列車はわずか2時間で駆け抜けてしまう。
19:49、1分遅れで昆明南に到着した。出口改札でもパスポートを機械に読み取らせて出場する。
昆明南駅から地下鉄に乗車
ここ昆明南駅は昆明市街中心部から直線距離で20kmほど離れている。当駅から市街中心部へは昆明軌道交通(地下鉄)1号線が結んでいる。東風広場までの所要時間は約50分。
地下鉄の乗車券は自動券売機で簡単に購入できる。運賃は昆明火車站駅まで大人5元、東風広場駅まで同6元。
感想
今回乗車した路線は、中国の高速鉄道路線の中でも屈指の景色の良い路線であると思う。特徴的なカルスト地形が続く車窓は飽きることが無かった。
ただし、7時間もの長時間の旅は、二等車では少々きついかもしれない。乗り通す場合は、運賃はやや高いが一等車をお勧めする。
以前の記事でも述べたが、現在も新路線の建設が進められている中国の高速鉄道。採算問題が報道されることもあるが、在来線貨物輸送力の増大のためにも、いわゆる”客貨分離”は今後も更に進めなければならないであろう。近い将来、在来線から旅客列車が消える日が来るかもしれない。
我々日本人にとって気になるのは、やはり高速鉄道の安全性の問題。2011年の脱線事故は衝撃的であったが、それ以降は目立った事故は発生していない。しかし、今回通った手抜き工事区間に象徴されるように、施工の質の問題はやや心配な点である。施設が新しい内は良いが、今後経年による老朽化が進むと様々な不具合が発生してくるかもしれない。
新線建設とともに、大事故に繋がらないよう既存施設の適切な維持管理を願うばかりだ。
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