悠久の大河メコンを渡る列車の旅。今回はタイ東北部(イサーン地方)の主要都市ウドンタニから、国境の街ノンカイで国際列車に乗り継ぎ、ラオスを目指しました。
なお乗車時の動画はYouTubeにアップしておりますのであわせてご覧ください。
ウドンタニ駅の様子
ウドンタニ空港からGrab配車サービスで約15分、タイ国鉄(SRT)ウドンタニ駅に到着した。時刻は10:20を過ぎたところ、ジリジリと日が差しているが”灼熱”というほどの暑さはでない。
駅は市街中心部からやや東に外れた場所に位置している。駅前にはナイトマーケットがあるが、日中はまだ店が開いておらず閑散としている。
しかし、周辺にはケンタッキーフライドチキンやセブン-イレブンなどがあり、また10分ほど歩くと巨大ショッピングセンター「セントラルプラザ」もある。タイの地方都市の駅前には何も無いことも多いが、ここは比較的賑やかだ。
駅舎のファサードは何故かギリシャ神殿風。
当駅は首都バンコクからノンカイに至る東北本線の中間駅。2023年11月現在、上下合わせて5往復10本の列車が発着している。うち3往復はバンコクとノンカイを結ぶ優等列車で、普通列車は2往復のみだ。
立派な液晶の案内標もある。
さて、まずは国境の街ノンカイまで向かう。日中時間帯のノンカイ行きは11:21発の普通415列車のみ。早速窓口でチケットを購入する。こんなところに日本語の表記が。
普通列車は3等モノクラス制。ノンカイまでの運賃は11バーツ(50円弱)と激安だ。ちなみに特急列車の1等個室寝台でバンコクまで2,313バーツ(約9,900円)。
無事チケットを手に入れたが、発車時刻まで約50分もある。しかし大きな荷物を引いて周辺をウロウロする気力も無いので、駅構内で時間を潰すことにした。
時代の変化から取り残されたような牧歌的な雰囲気の駅構内。まるでここだけ時間が止まっているかのようだ。信号機は腕木式、ホームには通票授受柱がある。
ホームの一角には小荷物扱い所がある。かつて日本の鉄道でも小荷物輸送が行われていた時代、各駅にこのような大きな秤があった。
信号扱所には大きな手動の梃子がずらりと。構内の各ポイントや信号機とはワイヤで繋がっており、信号担当職員の梃子扱いで動作する。連動装置(ポイントと信号機を関連付ける装置)は機械式であろう。
信号保安装置は古典的なままである一方、マクラギは側線を含めてすべてパンドロールPC化されている。設備投資の優先順位が日本とは逆のような気がする。日本ならまず先に”人”を削れる信号に手を入れるであろう。
貨車と機関車の入換作業が行われていた。各貨車には20フィートのISOコンテナが満載されている。中国の錦江航運のコンテナは中国ラオス鉄道に継送されていくのであろうか。
普通415列車でノンカイへ
そうこうしているうちに列車到着時刻が迫ってきた。ホームには列車を待つ乗客が増えてきている。ホームにある液晶の発車標にはDelay(遅れ)の情報も表示されているが、ずっと”0”のまま。遅延が常態化していたタイ国鉄であるが、とうとう定時の安定輸送に目覚めたのであろうか。
しかし、到着予定時刻の11:19を過ぎても一向に列車が来る気配が無い。やはり愛しのSRTは昔のままだった。
11:30過ぎ、接近を知らせる鐘が鳴り案内放送が始まった。緑と赤の旗を持った当務駅長がホームに出て、入線する列車に支障なしの合図を送る。
運転助士が通票受器に前の駅からの通票を投げ入れ、そのあとに通票授器から次の駅までの通票を受け取る。通過列車ではないが、授受の時間短縮のためにこのような取扱いが行われる。ちなみにこの”通票”とは、衝突防止のため駅と駅との間に1本の列車しか入れないようにするための通行許可票のこと。”タブレット”とも呼ばれ、日本では絶滅危惧種の方式だ。
4両編成の各車両とも満席状態で到着。ナコンラチャシーマーを6:20に出発し、途中のほとんどの駅に停車しながら5時間かけて走ってきた列車だ。当駅で半数以上の乗客が下車、運賃が激安であるとは言え、一日数本の路線にこれほどの需要があるとは驚いた。
車両はRH.型とその改良タイプのRHN.型と呼ばれる古い一般型気動車だ。日本製で1960~70年代の製造。内外装とも同世代の日本国鉄キハ20系気動車に何となく似ている。
18分遅れの11:39、当務駅長の出発合図でウドンタニを発車。エンジン全開で加速していく。
列車はのどかな緑の大地を快調に走っていく。スマホのGPS速度計で測ってみると、約85~90km/hほどの速度が出ている。ほぼロングレール化されており、軌道改良のおかげで揺れはほとんどない。
ウドンタニとノンカイの間は52.2kmだが途中駅は2駅のみ。かつては停留所(信号取扱が無い、ホームがあるだけの駅)を含め7駅あったが整理された。
最初の停車駅、ナプーに到着。Wikipediaタイ語版によると、この駅は元々停留所で1998年に一旦廃駅となったが、路線改良に伴う輸送力増強のため、2015年に近隣の停留所を統合の上、有人の停車場として再開業したとのこと。
次の停車駅はナタ。ここは現ノンカイ駅が開業する1958年まで「ノンカイ」を名乗っていた。それにしてもこのような田舎の小さな駅にもちゃんと職員が配置され、構内は美しく環境整備されている。仮にここが日本なら草が伸び放題で荒涼とした無人駅となってしまっているであろう。なお、通票閉塞区間は当駅までで、ここからノンカイの間は連査閉塞区間となっている模様。
12:21、終着駅のノンカイに到着。ウドンタニ~ノンカイ間の表定速度は約74km/hと中々の俊足であった。
乗ってきた車両は折り返し12:55発の普通418列車としてナコンラチャシーマーに戻っていく。
駅前にはラオス国境の友好橋や市街中心部へと向かうトゥクトゥクが列車の到着を待っていた。
(②につづく)
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