【2020年9月】大井川鐡道のんびり途中下車の旅(その2)

SL列車やトーマス号で有名な静岡県の大井川鐡道。これら看板列車以外にも各地で活躍した往年の名車両に乗り、また途中下車して沿線を散策するのも楽しい路線です。今回、周遊きっぷを使い鉄道とバスを組み合わせて、大井川鐡道の魅力を満喫する旅をしてみましたので、その様子を詳しくご紹介します。

(その1から続き)

【2020年9月】大井川鐡道のんびり途中下車の旅(その1)

旅行記(続き)

閑蔵~奥大井湖上(バス)

11:49、若干の遅れで閑蔵に到着、下車する。駅出口は遥か前方(井川方)なので、急いで足を進める。

閑蔵で下車

井川方には上下本線にまたがる構内踏切があるが、警報機等の踏切保安設備は無い。

井川方
千頭行と交換

森の中の秘境駅といった雰囲気で、ホームとトイレ以外に”駅”らしい設備はなく、まるで信号場のようだ。細い通路を通って駅を出る。

駅出口

バス乗り場は駅から200m。すでに時刻は11:50になってしまったが、バスはまだ発車を待っていてくれている様子。

バス乗り場に向かう

秘境的な駅構内に比べ、駅前は思ったより開けている。バス乗り場も広々としており余裕がある。

所定の発車時刻は過ぎていたが、まだ乗客が列を作ってバスに乗り込んでいた。

バスに乗車

バスはトップドアの三菱ふそうエアロスター。車体には「大井川鐡道」と表記されているが、バス事業は現在、子会社の「大鉄アドバンス」に移管されている。

エアロスター
バス車内

11:54、4分遅れで発車。乗客は13名。

さて、これから「湖上入口」バス停で下車、徒歩で「奥大井湖上」駅に向かい再び井川線列車に乗車する予定であるが、できれば千頭に戻る前に「長島ダム」で途中下車してみたい。そのためには奥大井湖上12:11発の千頭行列車に乗らなければならないが、バスの発車が4分遅れたことでバス停から駅への移動時間がかなりシビアになってしまった。

千頭14:55発の「ELかわね路号」に間に合うよう千頭に戻ることが必須条件であるが、1本見送って奥大井湖上13:15発の列車でも千頭での接続に間に合う。湖上の秘境駅を堪能するか、巨大ダムを見学するか、選択を迫られた。

12:01、湖上入口到着。列車発車まで10分。このままバスに乗り長島ダムに向かう選択肢もありえたが、とりあえず下車。

湖上入口

奥大井湖上~長島ダム

県道のトンネル脇に、駅に向かう遊歩道の入口がある。少し足を進めると、右手眼下に写真でよく見る赤い鉄橋と湖上駅が見えてきた。まさに絶景。

歩道入口
歩道からの絶景

絶景スポットの歩道には大勢の観光客がいた。駅から登ってきたのであろうか。

なお、写真の通り駅はダム湖に浮かぶ半島状の陸地の先端部に位置しているが、井川方(写真左手)の鉄橋に歩道が併設されており、橋のたもとまで歩道がつながっている。

千頭行き発車時刻まで10分を切っている。間に合わなければ仕方が無いと思いつつ、急ぎ足で駅に向かう。

奥大井湖上駅への道

鉄橋への取り付け部は急な階段となっている。滑りやすいので要注意。

鉄橋への階段を下る
鉄橋が見えてきた

ようやく橋に降り立った。時刻は12:06、発車まで5分ある。ここまでくれば余裕だ。

景色を堪能しながら橋を渡る。すぐに列車に乗ってしまうのは何とももったいない気がしてきた。

鉄橋上の歩道
井川方のトンネルと橋への取り付け部

12:09、発車2分前に駅に到着。大勢の観光客が”秘境駅”を楽しんでいる。駅に隣接してカフェがあるはずだが、営業していたかどうかは未確認。

鉄橋からの眺め

12:11発202列車が定時到着。長島ダム見学を諦めて、ここで時間を過ごそうかと迷ったが、せっかく間に合ったのでに乗車することにした。

202列車到着
乗車
奥大井湖上発車

中途半端な時間帯のためか、車内はやや空いていた。往路とは反対側の車窓を楽しむ。

ひらんだ付近にて

長島ダムに定時到着。坂を下る”上り列車”もアプト式の電気機関車を連結する。背の低いディーゼル機関車と大柄な電気機関車の対比が面白い。

長島ダム到着
アプト式電気機関車連結

202列車は千頭に向けて12:25に定時で発車していった。駅に静寂が訪れる。PCマクラギが並び立派な電車線支持物が立つ構内は、ホームの低さを除けばJRの幹線駅と見まごうばかり。

駅構内

ホームから階段を降りた所に、小さな洋風の駅舎が建っている。無人駅なので、待合スペースとトイレがあるのみ。

駅舎

駅舎内に時刻表が掲出されていた。井川線列車と閑蔵線バスが一体となって記載されており、相互に補完し合っている様子がわかる。両者を組み合わせることにより、行程の選択肢が大きく広がる。

時刻表

駅舎の前には閑蔵線のバス停がある。

バス停

長島ダム散策

さて、長島ダムに向かうことにするが、その前に千頭行きの時刻を再確認。先ほどの時刻表を見ると、次の列車は13:29発で千頭には14:21着。14:55発「ELかわね路号」には余裕で間に合うが、その次に記載されている14:21発のバスでも千頭着は14:40なので間に合ってしまう。選択肢が二つあるので、これからの状況により判断したい。それにしても”俊速度”はバスの圧倒的勝利である。

駅から徒歩3分程度でダム天端部に到着。立派なダム管理所の建物がある。ダム周辺は公園として開放されており、ぐるっと散策できるコースがある。

案内図

この長島ダムは、1972年に調査着手、30年後の2002年に完成した重力式の多目的ダム。主に治水と灌漑を目的としている。てっきり発電用のダムだと思っていたが、ダム管理用の小規模な発電を行っているのみとのこと。

ダム天端部を歩いて渡ることができる。上流側はダム湖「接阻湖」。カヌー競技のメッカである。

上流側

下流側には井川線のアプト式急勾配区間が見える。眼下には人道橋の「しぶき橋」が見え、線路付け替え前の井川線旧線はそのあたりを走っていた。

下流側

ダム中央部の高さは109m。約27階建てのビルの高さであるとのこと。上から見下ろすとダムの迫力が伝わってくる。

天端中央部から見下ろす
左岸側から駅方面を眺める

左岸側には防災施設「ふれあい館」と、隣接して「四季彩公園」がある。

四季彩公園

ダムから5分ほど歩くと「ふれあい館」に到着。ダムと井川線に関する展示スペースがあり、トイレも利用できる。

ふれあい館

時刻は12:45、次の列車までかなり時間があるので館内をゆっくり見学する。昼時でお腹が減ってきたが、当館含めダム周辺には残念ながら飲食店は無い。

ふれあい館を後にして駅に戻る。まだ13:29発の列車に十分間に合うので先を急ごう。何より空腹が我慢できなくなってきたので早く千頭に戻りたい。

今度はダム下流側を通って行くことにする。よく整備された四季彩公園を通り抜けて舗装道路に出る。

舗装道路

ここから井川線の旧線跡を通ってアプトいちしろ駅まで歩いていくことも可能。距離的には長島ダム駅までと同程度。しかし、旧線跡のトンネルには照明が無いため懐中電灯が必要だ(ふれあい館で借りることが可能)。

せっかくなので、旧線トンネルまで行ってみたい。舗装道路を下流方向へしばらく進むと、「ミステリートンネル」入口のサインがある。

旧線トンネル入口

サインに従い進むと、すぐにトンネル抗口に到着。鉄道トンネルとしてはかなり小さな断面であることが分かる。

これ以上進むと時間が無くなってしまうが、少しだけトンネルに入ってみた。予想通りスマホの照明が全く役に立たないほどの暗さだが、少しだけ明かりが見える箇所があるので近づいてみた。

すると、下の写真のような奇妙な物体が置かれていた。「キャンプ場の番人 杉丸雄」と書かれている。

杉丸雄君

丸雄君と別れて長島ダム駅に向けて折り返す。舗装道路に戻り、ダムに向かってしばらく足を進めると目の前に巨大なコンクリートの”壁”が現れる。

先ほどダム天端から見えた人道橋「飛沫(しぶき)橋」を渡って右岸側に戻る。橋の入口にはネットが張られているが、これは鹿の侵入防止のための措置で、人間様は網をくぐって中に入ることができる。

飛沫橋
注意看板

橋の中心部からダム本体を眺める。名前の通り、放水口からの”しぶき”が飛んできている。

しぶき橋からの眺め

右岸側は「大樽広場」と名付けられ、生物観察ができるビオトープがある。橋から繋がる歩道は旧線路敷で、鉄道敷らしい緩やかなカーブを描いている。

大樽広場ビオトープ
旧線跡

ここからが最大の難関、はるか上方にある駅まで斜面を登らなければならない。大きく迂回する車道を経由するか、直登する階段を利用するかの選択を迫られる。

斜面

運動不足の身にはやや厳しいが直登ルートを選択。途中何度も休みながら必死で登っていると、下流方向から上ってくる列車が見えてきた。13:24発の”下り”205列車だ。

アプト区間を上る”下り”列車

長島ダム~千頭

力強く上る列車に励まされ、何とか駅に到着。時刻は13:20を過ぎていた。ほどなくして千頭行上り204列車も定時で到着。ホームに設置された自販機で購入したミネラルウォーターを飲みながら乗車する。

上り204列車到着

先ほど乗車した202列車よりも混んでいた。残念ながら往路と同じ進行右側の席しか空いておらず。

急勾配を下る

14:21、千頭に定時到着。駅周辺の街並みが”都会”に見える。

千頭到着

この時点で「ELかわね路号」は満席とのこと。早めに急行券を購入しておいて正解であった。

ELかわね路号満席の表示

千頭~金谷

千頭駅前で軽く腹ごしらえして、早速「ELかわね路号」に乗車する。昔懐かしい国鉄の旧型客車である。

ELかわね路号

客車は3両編成で、先頭部に元西武のE31形電気機関車が重連で連結されている。

E31形電気機関車

最後尾の3号車に乗車。車両番号はオハフ33 469で、同形式の中では戦後に製造された後期型である。

3号車車内

一つ前の2号車は、同じオハ35系のオハ35 559で、こちらは戦前製。やや近代的な3号車に比べてレトロ感が強い。

2号車車内

発車時刻が近づいてきたが、車内はそれほど混雑していない。恐らくボックス単位で席を販売しているのであろう。コロナ感染対策で席数を制限しているとのこと。

「SL乗車券」という名の急行券

14:55、定時発車。旧型客車特有の重々しいジョイント音が響く。

千頭発車

途中停車駅は、急行らしく川根温泉笹間渡と家山の2駅のみ。しかし、所要時間は各駅に停まる電車の普通列車の方が短い。いわば”急”いで”行”かない列車である。

往路に通った大井川沿いの線路を走っていく。改めて川幅の広さを実感する。

川幅広い大井川

車掌は2名乗務。うち1名は女性で、沿線の観光案内をしてくれる。他に車内販売員が乗車しており、「SL列車」ではないが、SLグッズが売られている。

車内販売

2つ目の停車駅、家山で5分間停車。往路に途中下車した駅であるが、せっかくなのでホームに降りてみる。行き違いとなる下り普通列車が入線してきた。

下り普通列車

それにしても、窓が開く列車は気持ちがいい。静岡らしい茶畑が広がるのどかな景色を見ながら進む。

車窓

16:11、終着の新金谷に到着。ここから1駅間のみ普通列車に乗り継ぐ。

新金谷到着

10分ほど接続時間があるので、改札口を一旦出てみる。この駅で下車するのは初めてだ。

新金谷駅舎

大井川鐡道の本社でもある駅舎は木造の古い建物。2018年に国の有形文化財に登録されている。最近改装されたのであろうか、駅舎内にはおしゃれがカフェがあった。

大井川本線の車両基地があり、多くの車両が留置されている。現在は静態保存となっている蒸気機関車C12 164の姿も見える。

C12 164

さて、ラストランナーは元近鉄の16000系。往路にも乗車した車両であるが、改めて1駅のみの乗車を楽しむ。

16000系
車内

16:26、金谷に定時到着。これで大井川鐡道日帰りの旅は無事終了となった。

感想

今回旅をした大井川鐡道は、沿線人口は決して多くはない鉄道であるが、SL列車に代表されるように、目的地への”手段”ではなく、乗ること自体を”目的”とする列車を走らせることで生き残っているローカル鉄道である。

その中で特筆されるのが、「きかんしゃトーマス」の装飾を施したSL列車の存在だ。コロナ渦により人の動きが大幅に減少している中でも、この列車は根強い人気を誇っていると聞いた。正に地域に元気を与える存在なのである。

たとえ乗客が少なくなってしまったとしても、地域の象徴である列車が存在すること自体が、沿線に多大な効用をもたらす。会社の損益計算書では表すことができない「価値」を生み出しているのである。

感染症の影響により全国の公共交通が苦境に立たされている現在、各事業者は生き残りのために必死の努力を強いられている。減便、値上げ、更なる乗客減の末に廃止と、負のスパイラルに陥っていく事業者も多くなるであろう。

筆者は長年経理畑を歩いてきたので良くわかるが、財務諸表というものは、多様な「価値」の中の一つに過ぎない「交換価値」で評価したものに過ぎず、事の本質を表すものでは決して無い。その数字だけですべてが判断される資本主義がもたらす弊害が、環境問題、格差問題などの社会の歪みに表れているのではないだろうか。

交通がもたらす本質的な「価値」とは何か。改めて捉え直す時期が来ていると思う。

関連リンク

大井川鐵道

鉄道コム

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