高原都市サパからバスでラオカイに戻り、ラオカイ駅からハノイ駅まで寝台列車「King Express」に乗車しました。サパとハノイ間の移動は速くて本数も多い高速バスが大変便利になりましたが、安全・快適な鉄道の旅も依然として人気があります。
駅や車内の様子なども含め、ベトナムの鉄道の魅力を詳しくお伝えします。
乗車データ
項目 | 列車 |
---|---|
乗車区間 | ラオカイ-ハノイ |
事業者 | King Express(運行はベトナム国鉄) |
列車番号 | SP4 |
車両形式 | An11762 |
乗車時間 | 7時間50分 |
乗車クラス | 4人コンパートメント寝台 |
運賃 | 37.1 USD |
基本情報
概要
ラオカイ省の省都ラオカイから首都ハノイまでは、ベトナム国鉄(VNR)のハノイ-ラオカイ線が結んでいる。
路線延長は296km。中国との国際連絡路線であり、かつては昆明とハノイを結ぶ国際旅客列車が走った区間であるが、実態は全線単線非電化で線路規格も低い”ローカル線”である。
時刻表
2020年1月現在、区間運転のYB3/4を除き全て夜行列車となっている。時刻表は下表の通り。なお、SP1/2とSP3/4は毎日運転であるがSP7/8列車は不定期列車の模様。
表1-1 ハノイ-ラオカイ線(ハノイ→ラオカイ)列車時刻表(2020年1月現在)
駅名 | キロ程 | YB3 | SP1 | SP3 | SP7 | |
---|---|---|---|---|---|---|
Hà Nội | 0k000 | 発 | 6:10 | 21:35 | 22:00 | 22:30 |
Long Biên | 2k | 〃 | 6:21 | レ | レ | レ |
Gia Lâm | 5k440 | 〃 | 6:32 | 21:53 | 22:18 | 22:48 |
Yên Viên | 10k900 | 〃 | 6:44 | 22:06 | 22:31 | 23:01 |
Đông Anh | 21k210 | 〃 | 7:12 | 22:28 | 22:53 | 23:23 |
Phúc Yên | 38k990 | 〃 | 7:36 | レ | レ | 23:47 |
Vĩnh Yên | 53k500 | 〃 | 7:57 | 23:07 | レ | レ |
Việt Trì | 72k710 | 〃 | 8:22 | レ | 23:52 | レ |
Phủ Đức | 81k770 | 〃 | 8:40 | レ | レ | レ |
Tiên Kiên | 90k700 | 〃 | 8:57 | レ | レ | レ |
Phú Thọ | 99k160 | 〃 | 9:13 | レ | 0:32 | レ |
Chí Chủ | 108k150 | 〃 | 9:29 | レ | レ | レ |
Vũ Ẻn | 118k170 | 〃 | 9:47 | レ | レ | レ |
Ấm Thượng | 131k | 〃 | 10:09 | レ | レ | レ |
Đoan Thượng | 140k540 | 〃 | 10:26 | レ | レ | レ |
Yên Bái | 155k350 | 〃 | 10:50 | 1:40 | 2:20 | 2:46 |
Cổ Phúc | 165k070 | 〃 | 着 | レ | レ | レ |
Ngòi Hóp | 176k840 | 〃 | レ | レ | レ | |
Mậu A | 186k270 | 〃 | レ | 3:06 | 3:31 | |
Trái Hút | 201k750 | 〃 | 2:48 | レ | 3:58 | |
Lâm Giang | 210k150 | 〃 | レ | レ | レ | |
Lang Khay | 218k600 | 〃 | 3:17 | レ | レ | |
Lang Thíp | 227k300 | 〃 | レ | レ | レ | |
Bảo Hà | 236k580 | 〃 | 3:49 | 4:24 | 4:54 | |
Thái Văn | 247k300 | 〃 | レ | レ | レ | |
Phố Lu | 261k300 | 〃 | 4:31 | 5:06 | 5:35 | |
Thái Niên | 276k670 | 〃 | レ | レ | レ | |
Lào Cai | 293k560 | 着 | 5:30 | 6:05 | 6:33 |
※SP7は運転日注意
表1-2 ハノイ-ラオカイ線(ラオカイ→ハノイ)列車時刻表(2020年1月現在)
駅名 | キロ程 | YB4 | SP8 | SP2 | SP4 | |
---|---|---|---|---|---|---|
Lào Cai | 293k560 | 発 | 20:10 | 20:55 | 21:40 | |
Thái Niên | 276k670 | 〃 | レ | レ | レ | |
Phố Lu | 261k300 | 〃 | 21:06 | 21:51 | 22:36 | |
Thái Văn | 247k300 | 〃 | レ | レ | レ | |
Bảo Hà | 236k580 | 〃 | 21:46 | 22:31 | 23:15 | |
Lang Thíp | 227k300 | 〃 | レ | レ | レ | |
Lang Khay | 218k600 | 〃 | レ | レ | 23:45 | |
Lâm Giang | 210k150 | 〃 | レ | レ | レ | |
Trái Hút | 201k750 | 〃 | 22:39 | レ | 0:13 | |
Mậu A | 186k270 | 〃 | 23:07 | 23:47 | レ | |
Ngòi Hóp | 176k840 | 〃 | レ | レ | レ | |
Cổ Phúc | 165k070 | 〃 | レ | レ | レ | |
Yên Bái | 155k350 | 〃 | 14:45 | 23:58 | 0:38 | 1:28 |
Đoan Thượng | 140k540 | 〃 | 15:08 | レ | レ | レ |
Ấm Thượng | 131k | 〃 | 15:24 | レ | レ | レ |
Vũ Ẻn | 118k170 | 〃 | 15:45 | レ | レ | レ |
Chí Chủ | 108k150 | 〃 | 16:01 | レ | レ | レ |
Phú Thọ | 99k160 | 〃 | 16:18 | 1:28 | 1:28 | 2:52 |
Tiên Kiên | 90k700 | 〃 | 16:34 | レ | レ | レ |
Phủ Đức | 81k770 | 〃 | 16:51 | レ | レ | レ |
Việt Trì | 72k710 | 〃 | 17:09 | 2:09 | レ | 3:33 |
Vĩnh Yên | 53k500 | 〃 | 17:35 | 2:35 | レ | 3:59 |
Phúc Yên | 38k990 | 〃 | 17:57 | レ | レ | レ |
Đông Anh | 21k210 | 〃 | 18:24 | 3:19 | 3:46 | レ |
Yên Viên | 10k900 | 〃 | 18:46 | 3:41 | レ | 5:00 |
Gia Lâm | 5k440 | 〃 | 19:01 | 3:56 | 4:17 | 5:15 |
Long Biên | 2k | 〃 | 19:12 | レ | レ | レ |
Hà Nội | 0k000 | 着 | 19:20 | 4:11 | 4:32 | 5:30 |
※SP8は運転日注意
予約
各列車とも一部のコンパートメントは、ホテルや旅行会社が借り切る形でそれぞれ個別に乗客を募集し、独自のサービスが行われている。10社ほどあり、値段は会社や等級により片道30~190USDまで様々。最も豪華で最も高いのが、サパの高級ホテルが運営する「Victoria Express」だ。
今回筆者が乗車したのは「King Express」。値段的には中堅クラス(37USD)である。
最も安いのは国鉄車両。当日駅で購入することもできる。運賃は乗車日や寝台位置により異なるが、ハノイ-ラオカイ間4人コンパートメント寝台は概ね大人片道35~40万ドン程度(日本円で約1,800円)。
予約は以下サイトで日本からも可能(若干の予約手数料がかかる)。チケットは電子メールでEチケットが送られてくる。今回利用した「King Express」は、当日乗車前に指定された場所でチェックインを行いBOARDING PASSを発券してもらう必要がある。
なお、国鉄公式サイトでも予約ができるが、クレジットカード払いができないなど、外国人には敷居が高い。
ラオカイ駅の様子
夕方のラオカイ駅。既に時刻は18時を過ぎ、すっかり暗くなってしまった。
まず最初に「King Express」のオフィスでチェックインを行わなければならない。今回は「VietnamRailwayCorp」という旅行会社のサイトで予約してある。クレジットカードで決済後に電子メールで下図のバウチャーが送られくるので、案内に従って手続きしなければならない。
バウチャーの地図に示された所からやや離れた場所にオフィスがあった。分かりにくいので正確な位置を示してほしい。
既に自分のBOARDING PASSは発券されており、チェックイン手続きはすぐに終わった。
SP4列車の発車は21:40。まだかなり時間があるのでとりあえず荷物を預かってもらう。無料でオフィス内に荷物を置かせてもらえるが、ロッカーやバゲッジルームではなくその辺にドカッと置くだけなので貴重品は身に着けておきたい。
まずは食事だ。駅周辺には食堂やカフェが多数あるので便利。
駅前広場の一角にある食堂に入る。フォーとビールで軽めの食事にする。ビールは地元醸造の「ビア・ラオカイ」を飲んでみた。口当たりの良い軽めのピルスナーだが、やや雑味があるので自分の好みではなかった。なお、列車はかなり揺れるので飲みすぎには注意。
食事を終えて駅に戻る。駅舎側の線路(1番線)には先発のSP2列車(20:55発)が停車中。改札口はまだ施錠されておりホームに入ることはできない。
駅舎内には切符販売窓口と旅行案内カウンター、売店、トイレなどがある。売店は飲み物や菓子類の販売が中心。
窓口上部には時刻表と運賃表が掲示されている。
なお、駅舎内にはラウンジもあるが、特定の会社の乗客のみ利用可能な模様。
発車時刻が近づくと駅は乗客で混雑してくる。20:17、SP2列車の改札が開始された。
ホームには信号扱所があり、運転担当職員が数名詰めている。旅客列車は朝夕のみの発着だが、貨物列車の運転もあるので駅構内はかなり広い。
SP2列車の発車3分前、信号扱所から出てきた当務駅長らしき職員が、通票と合図灯を持って機関車に向かう。通票は円盤状の”タブレット”ではなく、棒状のものであろうか。
各車両の入口で乗客を案内していた乗務員が車内に乗り込む。ホームには誰もいなくなり、発車準備は整った。
20:55、SP2列車が定刻に発車。
列車編成
”本線”に当たる3番線には、次発のSP4列車が既にスタンバイしていた。
列車を観察してみる。先頭はディーゼル機関車が1両繋がれ、その後ろに客車が15両連結されている。
機関車はD12E型電気式ディーゼル機関車。チェコのČKD社製で、1985年から1990年にかけて40両が輸入されたとのこと。出力1200馬力で最高速度は80km/h。無骨な外観はいかにも東欧の機関車といった風情だ。
客車には営業会社のロゴが表示されている。先頭からVictoria Expressが3両、Sapaly Expressが2両、Laman Expressが1両、King Expressが4両、Chapa Expressが2両、無印の国鉄車が3両(うち1両は座席車)の編成。
車内は会社ごとに独自の装飾がされている。既に年が明けてしまっていたが、冬の季節を象徴するイメージであるのかクリスマスの飾りつけがされている車両も。
指定されたKing Expressの5号車に乗車する。各号車ドア付近には専属の乗務員が立っていて、BOARDING PASSのチェックを行う。
車内設備
客室は施錠可能なコンパートメント。定員4名と2名のコンパートメントがあるが、設備的には同一で上段のベッドを使うか否かの違いのみ。
寝台自体は清潔で寝心地も悪くない。ただ、男女同室で仕切りのカーテンが無いので、相互に気を遣ってしまうのが難点。
テーブルにはサービス品として4名分の水とチョコ菓子、お手拭きが用意されている。
なお、テーブルの下には、照明スタンド用の電源が設置されている。プラグが合えばスマホ等の充電も可能である。
トイレと洗面所は各車両に設置されている。トイレの悪臭に悩まされるとの情報もあったが、芳香剤が大量にまかれており不快は感じなかった。
このKing Express車内の装飾は比較的簡素である。外からパッと見で他社の車両と比べてみたが、豪華さではVictoria Expressが断トツNo.1。コスパではChapa Expressがおすすめか。
信号扱所を見学
発車まで時間があるので、先ほど見た信号扱所に行ってみることにする。中にいる職員に、スマホの翻訳アプリで自分が日本の鉄道マンであることを伝えると、室内に入れてもらえた。
奥には連動制御盤と通票閉塞器が設置されていた。連動装置の種類は不明だが、恐らく継電連動であろう。ちなみにこの連動装置とは、ポイントと信号機を関連付けて事故を防ぐ、駅で最も重要な信号保安装置である。筆者も訓練等で扱ったことがあるが、慣れないとかなり緊張するものだ。
発車~到着
乗客が続々と乗り込んできて、5号車はほぼ満席となった。同室の乗客はイタリア人の団体客。女性ばかりなのでやや肩身が狭い。
乗車早々、このイタリア人乗客は天井の冷房吹き出し口をテープで封鎖していた。前回の乗車で寒さに懲りたのだろうか。タイの寝台車にも言えるが、これでもかと恐ろしいほど冷房を効かせるのには参ってしまう。
21:39、定刻より1分早く発車。乗客がいなくなりすっかり寂しくなったラオカイ駅を後にする。
列車は定刻通り順調に走る。線路の状態が良くないので列車はかなり揺れるが、逆に心地よい揺り籠のようで睡魔が襲ってくる。
途中何度か目が覚めてしまったが、それなりに睡眠をとることができた。やはり完全に横になれる寝台車の恩恵は大きい。
5:00、ドンダン方面から来る路線との合流駅イエンヴィエンに若干の遅れで到着。続いてザーラムに停車。既にハノイ市内に入っている。
ザーラムを発車すると次は終点ハノイ。ここでラオカイから鉄路と平行して流れてきたソンホン川(紅河)を初めて渡る。ラオカイとは比べ物にならないほど立派に成長した川幅だ。この橋はフランス植民地時代に造られた「ロンビエン橋」。鉄道と二輪車の併用橋である。
橋を渡ったところで一旦停止。昼間は賑やかな旧市街も夜明け前はひっそりとしている。
5:29、ほぼ定刻にハノイ到着。7時間50分の列車の旅であった。
到着番線は8番線で、向かいの7番線には6:10発のイエンバイ行きYB3列車が停車している。昼行列車なので座席車が連結されている。
駅前のホテルで仮眠
さて、こんな朝早くにハノイ駅にいてもやることが無いので、駅近くの安宿に入り仮眠をとることにする。事前にホテル予約サイトで予約し、早朝到着することは伝えてある。
ハノイ駅は旧市街側の”A駅”と反対側の”B駅”に分かれている。日本風に言えばA駅が”東口(表口)”でB駅が”西口(裏口)”であろう。
構内からどちらへも出ることが可能。A駅へは階段を昇り跨線橋を渡る。
一方、裏口のB駅にはホーム北側にある構内踏切を渡っていく。予約したホテルはB駅前にあるのでこちらへ向かう。
停車している車両の間をすり抜けて出口へ向かう。”お客様”が通る通路ではなく業務用の通用口といった雰囲気だ。
8番出口から出場する。なお、一旦出てしまうと、通り抜けるため再び入場することは不可なので注意が必要。
仮眠先のホテル「A25 Hotel Tran Quy Cap」はB駅舎の目の前にあり便利な立地。この「A25 Hotel」はハノイ市内に数店ある格安ビジネスホテルチェーンである。
客室は狭いが清潔。設備も一通り揃っており問題は無い。料金は朝食込みで2,300円程度なのでコスパ抜群。
半地下に食堂があり、朝食は複数のメニューの中から選べる。
チェックアウト時間は12:00までなのでゆっくりできる。今回は超レイトチェックインであったが、宿泊日当日の超アーリーチェックインも追加料金を払うことで可能だ。
感想
ハノイ・ラオカイ間の高速道路の開通により、サパへのアクセスは高速バスが主流となってきているが、依然として夜行列車も根強い人気があることが分かった。特に欧米系の観光客が多い印象である。
また、1本の列車でも数社でサービス競争が行われているのも良い。このようなやり方は日本では見られないが、夜行列車復権、活性化の方法の一つであるかもしれない。
列車の運行管理もしっかりしている印象だ。トラブルでも無い限り大幅に遅延することは無いであろう。
課題は設備の改良・近代化。駅構内や踏切など、保安上人の注意力に頼っている部分も多いため、ヒューマンエラーによる事故がたまに発生している。
鉄道がこの先も必要とされる交通機関であるためには、安全性向上のための取り組みが求められる。
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