小海線の星空観察列車「HIGH RAIL(ハイレール) 星空」号に乗ってみました。昼間の景色を堪能する観光列車はいくつもあれど、夜が”売り”の観光列車は珍しい存在です。
さて、どんな楽しみ方があるか、実際に乗ってみた時の様子を詳しくお伝えします。
乗車データ
項目 | データ |
---|---|
事業者 | 東日本旅客鉄道(JR東日本) |
路線 | 小海線 |
列車番号 | 8223D |
乗車駅 | 小淵沢 |
降車駅 | 小諸 |
出発時刻 | 予定18:17 実際18:17 |
到着時刻 | 予定21:39 実際21:39 |
所要時間 | 3時間22分 |
座席種別 | 普通車指定席 |
車両番号 | キハ112-711 |
はじめに
意外にも縁が深い”星と鉄道”。かつて国鉄・JRには星にちなんだ愛称を持つ列車が数多く運転されていた。金星、彗星、月光、あかつき、明星、銀河、天の川、北斗星、カシオペア等々・・・。
多くは夜行列車に名付けられていたため、夜行列車が衰退してしまった現在では、やや縁遠くなってしまった感がある。
田舎の小駅で停車中にホームに降りてみると、街中では見ることのできない満天の星空。やはり夜行列車でなくても星と鉄道はなんとなく相性が良い。
それを実感できる列車が、ここ小海線に走っている。
基本情報
小海線は、山梨県の小淵沢から長野県の小諸までを結ぶ、全長78.9kmの鉄道路線。事業者は東日本旅客鉄道(JR東日本)。
”高原列車”として有名なこの小海線。清里-野辺山間にあるサミットは標高1375mで、JR線の最高地点となっている。
2017年夏から、最高地点の標高にちなんで名付けられた観光列車「HIGH RAIL 1375」が運転されている。一般型気動車キハ100系を改造した車両である。
全車指定席の快速列車として運転され、指定席券は全国の「みどりの窓口」で購入可能。なお、この列車の指定席料金は820円(こども410円)と、通常の快速指定席料金より割高になっている。
春~秋季は小淵沢・小諸間を1往復半、延べ3本運転される。このうちの1本が今回乗車した「HIGH RAIL 星空」号だ。
野辺山は、澄んだ空気と人工光の少なさという立地から、日本でも有数の星空が美しい場所とされている。「国立天文台野辺山」が設置され、”天体観測の聖地”とも言われている。
野辺山駅での停車時間を利用し、”聖地”での星空観察会が行われるのがこの列車の最大の特徴である。
表 快速「HIGH RAIL 星空」の停車駅及び時刻(2019年9月現在)
停車駅 | 到着時刻 | 発車時刻 |
---|---|---|
小淵沢 | - | 18:17 |
清里 | 18:57 | 18:58 |
野辺山 | 19:06 | 19:52 |
信濃川上 | 20:01 | 20:02 |
小海 | 20:24 | 20:40 |
八千穂 | 20:47 | 20:48 |
臼田 | 21:02 | 21:03 |
中込 | 21:08 | 21:14 |
岩村田 | 21:20 | 21:25 |
佐久平 | 21:27 | 21:28 |
小諸 | 21:39 | - |
乗車体験記
小淵沢から野辺山へ
久々に訪れた小淵沢駅は、かつての木造駅舎とは打って変わって近未来的な姿に変わっていた。
特急も停車するジャンクション駅でありながら、いかにもローカル駅然とした駅舎も味わい深かったが、この新駅舎は2階の改札口が跨線橋と直結しているので、以前の小海線ホームの不便さ(地下道と跨線橋を都合4回階段を上り下りしなければならない)が解消されたのは何より。
さて、乗り込む前に夕食の調達をしなければならない。車内の物販カウンターには飲み物と菓子類程度しかなく、ここを逃すと食事にありつけないので注意。
駅舎1階には、「MASAICHI」という売店がある。ここ小淵沢の有名な駅弁メーカー「丸政」のお店である。一番人気の駅弁は「元気甲斐」。ややお値段が張るがおすすめだ。
発車時刻は18:17。10分前に扉が開くとのことなので、しばらく待つ。
改札口には団体のツアー客が集合している。近年、ツアーの行程の一部にこのような”観光列車”の利用が組み込まれることが多くなっている。
発車時刻が迫ってきたので入場する。なお、この駅はSuica等のIC乗車券が使えるが、小海線は清里、野辺山駅を除きIC乗車券は非対応なので、佐久平、小諸方面まで行く場合は紙の乗車券を購入する必要がある。
5番線ホームに行くと、既に乗車が始まっていた。今日はほぼ満席の模様。
出入口は先頭車両2号車の後よりのドアのみ。客室乗務員に指定席券を見せる。
ここで、発車後に行われる車内プラネタリウムの上映会整理券が配られる。1回6分の上映が5回に分けられており、残った回の整理券を選ぶ。早い者勝ちだが、上映内容は同じ。
指定された後寄り1号車に乗り込む。JR東日本の予約サイト「えきねっと」で、シートマップによりお目当ての独立シートの指定を入手できた。
この独立シート、もちろん回転可能で、2人連れの場合は、半向かい合わせの形にすることもできる。
星が散りばめられた濃紺のモケットがおしゃれだ。
なお、この他に3タイプの座席がある。1号車には独立シートの他に、窓向きの2人掛けシートとグループ向けのボックスシートがある。ボックスシートの8番A席と9番A席は窓がふさがっているので要注意。
2号車は通常の回転リクライニングシートが並ぶ。この日は団体ツアー客が貸切状態であった。
その他の車内設備として、1号車には物販カウンターがある。飲み物と菓子類、お土産やグッズなどが売られている。
2号車にはプラネタリウムがある「ギャラリーHIGH RAIL」がある。宇宙に関する本が飾られ、自由に読むことが可能。
デッキにはスタンプが設置されている。特製スタンプ台紙も用意されている。
18:17、定時発車。本日担当の星空案内人さんから放送であいさつがある。
発車5分後から、先ほど整理券をもらった上映会が始まる。4回目を選択したので、順番までしばらく待つ。
しばらくして物販カウンターが営業開始となったので、ホットコーヒーを購入。「HIGH RAILコーヒー」とメニューに記載されている。ちなみに2号ではホットコーヒーの販売は無いとのこと。
”アテンダント”と称する客室乗務員が車内を回り、順番に記念のポストカードを頒布する。物販カウンター要員も含め、2名が乗務している。なお、客室乗務員はJR子会社の所属なので、正規の車掌ではない。正確には運転士のみ乗務するワンマン列車の扱いになる。
列車は最急33.3‰(1000m進むと33.3m登る)の急勾配をグイグイ登っていく。運転台の速度計を見ると、50km/h前後の速度が出ている。かつてキハ58などの旧型気動車は、エンジンをブンブン唸らせながら30km/h程度でやっとこさ登っていたものだ。
上映会の順番が来た。整理券を持って2号車のギャラリーに向かう。
ギャラリー内部は狭いが9名程度は座れる。映像の上映時間は約3分。星空案内人が今の季節、秋に見える星座について説明してくれた。
すっかり暗くなった19:06、野辺山に定時到着。
星空観察会
ここで46分間停車する。駅前で星空観察会を行うとの案内があったので、下車する。
駅舎を出て、駅前にある広場まで歩いて移動する。照明がほとんどないので、足元注意。
案内人がペンライトで夜空を照らしながら軽妙な語り口で説明してくれる。木星と土星が輝き、南東の空に天の川がうっすら流れ、こと座、ペガサス座、さそり座などを見ることができた。
頻繁に”動く星”のような光が見える。「動いているのは飛行機」との説明にどっと笑いが起きた。こんなにも多くの飛行機が飛んでいるのかと改めて驚く。
ここ野辺山駅は標高1345mに位置しているため、真夏でも夜は寒い。8月の最低気温は、気象庁の記録によると2018年8月18日に4.2℃まで冷え込んだとのこと。防寒対策はしっかりしたい。
野辺山から小諸へ
19:56、行き違いとなる上り普通列車が遅れて到着しため、4分ほど遅れて野辺山を発車。
野辺山からはほぼ下り坂となる。列車は機関ブレーキを効かせながらゆっくりと進む。
ここで食事タイム。小淵沢で購入した「元気甲斐」頂く。二重になっており、山の食材がふんだんに使われた豪華な弁当だ。
20:28、4分遅れで小海到着。ここでもしばらく停車する。2号車の団体ツアー客はここで下車した。
駅構内を散策してみる。夜のローカル駅の雰囲気が好きだ。闇の中に浮かぶ信号機と転轍標識の光が、”生きている駅”であることを主張する。
20:40、小海定時発車。客室乗務員が記念撮影ボードをもって撮影タイム。
途中、羽黒下で行き違いのため停車。客扱いは行わないので、”運転停車”だ。
次の停車駅は中込。小海線の中枢で、同線を統括する「小海線営業所」の所在地である。
物販カウンターは、中込到着前で営業終了となった。
21:08、中込定時到着。駅係員と白樺製の犬?が出迎えてくれた。
ホームの壁にはかつての臨時列車のヘッドマークが飾られている。「葉ッピーきよさと号」とは懐かしい。新宿から来た169系電車がディーゼル機関車に牽引されて非電化の小海線に乗り入れた伝説の列車。
21:14、駅係員に見送られて定時発車。夜遅いのにお疲れ様です。
新幹線乗換駅、佐久平で3割程度下車。終点小諸に向かう乗客は10人以下になってしまった。
21:39、小諸定時到着。あっという間の3時間22分だった。
感想
2017年7月にデビュー、2年経過してもなお根強い人気を誇る「HIGH RAIL 1375」。海外からの観光客にも認知され、今回も数名乗車していた。
景色の見えない”夜の観光列車”。暇をもてあましてしまうかと思ったが、あっという間に時間が過ぎ、なかなか楽しかった。
星空観察を行う野辺山をはじめ、主要駅で十分な停車時分を確保し、夜の駅の雰囲気を存分に味わうこともできる。
佐久平から上下新幹線に接続し、その日のうちに東京、金沢まで行くことも可能。行程の自由度が高いのも人気の理由であろう。
野辺山での星空観察会に参加する際の注意点として、前述した通り真夏でも気温が下がるので防寒対策をしっかりすること。所要時間は30分程度かかるので、風邪を引かないように。
また、荒天時は観察会が中止になる可能性もある。代替として近くの体育館でプラネタリウムの上映会が行われるとのこと。
いずれにしても、”夜汽車”の旅の楽しさが再確認できる列車として、ぜひおすすめしたい。
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