バスとの連携が”宿命”づけられている鉄道、北陸鉄道石川線に乗車してみました。今回は、金沢駅からバスに乗車し、野町駅で列車に乗り継ぎました。バスから列車への乗り継ぎを含め、実際に乗ってみた様子を詳しくお伝えします。
基本情報
北陸鉄道は、金沢を拠点として鉄道、バスを運営する石川県を代表する交通事業者。
現在は鉄道路線は2路線(石川線、浅野川線)計20.6kmのみとなっているが、最盛期には14路線147.6kmもの鉄道網を有していた。
一方、バス事業は、現在は地域ごとに数社に分社化されてはいるが、グループでは依然として石川県内の路線バスをほぼ独占している。
今回乗車した石川線は、金沢市の野町駅と白山市の鶴来駅を結ぶ延長13.8kmの路線。2009年までは鶴来から2.1km先の加賀一の宮駅まで結んでいた。
この路線の特徴はやはり野町駅における鉄道とバスの連携輸送である。起点の野町駅は、市内中心部から南東に外れた所にある。
ターミナル駅としては非常に中途半端な位置にあるが、かつては、ここから軌道線(路面電車)の金沢市内線が接続しており、それなりに賑わっていたとのことだ。モータリゼーションの進展に伴い、路面電車が廃止となってからは、バスがその役目を果たしている。
このような事情から、バスとの連携が必然的に”宿命”づけられている鉄道路線であると言える。
乗車体験記
金沢駅からバスに乗車
金沢駅から野町駅まで直通で乗り入れるバスは、表口にあたる”東口”ではなく、”西口”を発着する。
ここから野町駅まで行く路線は、”01”、”02”、”03”の3系統がある。5番乗り場から発車する。
発車間隔は概ね30~45分程度。次のバスは15:15発だ。
若干遅れて15:17にバスがやってきた。
車両は北鉄金沢バス所属の三菱ふそう新型エアロスターノンステップバス。
バスは金沢駅西口から中橋、六枚橋を経由して武蔵ヶ辻から百万石通りを南下する。
賑やかな香林坊、片町を通り、犀川を渡る。
野町三丁目交差点を右折し野町駅前へと進む。
15:35、野町駅に到着。金沢駅西口からは18分ほどかかった。数名降車。金沢駅からの運賃は市内中心部均一の200円。500円の1日フリー乗車券が利用できる。
乗客が降りると、バスは発車乗り場まで小移動する。
野町駅の様子
野町駅は鉄道とバスの乗り継ぎ利便性を重視した構造となっている。駅舎の形が、バスの回転動線に合わせて曲線状になっているのがおもしろい。
バス(主に01~03系統)と列車の乗り継ぎ時分は、バス→列車は概ね15~20分、列車→バスは2分となっており、バスの遅延を考慮して前者は余裕を持ったダイヤとなっている。
なお、当駅から5分ほど歩いた国道上に「野町」停留所がある。バスの本数もはるかに多いので、そちらの案内図・時刻表も掲出されている。
金沢市内の北陸鉄道路線バスには、1984年から”新バスシステム”が導入されている。これは東京、新潟に次いで全国で3番目の例だそうだ。路線ごとにバスの発車案内と障害情報が表示される。
列車の待合室内には、バスの乗り場案内が表示されている。また、バスと列車が一体になった接近表示システムが設置されている。
列車の次の発車時刻は16:00。折り返し列車は15:54に到着した。列車から降りた乗客が、市内中心部方面へのバスに乗り継いでいく。先ほど金沢駅から乗ってきたバスが折り返し発車していった。
待合室内には野町駅と鶴来駅での列車バス接続時刻表が掲出されている。野町駅では前述の通り列車到着2分後にバスが発車するダイヤが組まれている。
石川線の列車に乗車
発車時刻が迫ってきたので、列車に乗り込む。2両編成のステンレス製電車で、1990年に東京急行電鉄から移籍してきた5編成の内の1本。今回乗車したモハ7202は1964年製。
野町駅はかつて2面2線の駅であったが、現在は駅舎反対側の2番線は使用されていない。分岐器も撤去され、いわゆる”棒線駅”となってしまった。
なお、写真には納めていないが、列車前頭部運転席付近のホーム上家には、ホーム監視用のITVモニタの他に、新バスシステム表示器が設置されている。バス遅延時にはある程度接続が考慮されるのだろう。
16:00、定時発車。列車は住宅街の中を走る。ワンマン列車で車掌は乗務していない。
2つ目の新西金沢駅は、JR北陸本線西金沢駅の至近に位置し、同線との乗換駅となっている。金沢駅に向かう乗客は主にこちらを利用している。
列車はここから南下していく。速度が出始めたと思ったらすぐ駅に到着。駅間距離が短い。延長13.8kmで駅数は17、平均駅間距離は0.8kmである。
線路状態は悪くはなく、大きく揺れることはない。所々真新しいPCマクラギに交換されており、線路設備等の修繕もそれなりに行われている様子。
また、各駅ホームの待合室や上家などは概ね近代化されており、昭和末期~平成初期頃にかなり大規模な設備投資がされたのだろう。
休日の夕方とあって、乗客は少なく閑散としている。2両編成のうち、前部の車両に乗客が集中している。これは降車ドアが最前部のみとなるため。
四十万駅を過ぎると、車掌は住宅街から田園風景へと変わっていく。終点鶴来に近づくにつれ、乗客は少なくなっていく。
16:32、終点の鶴来駅に到着。駅舎は1927年に建てられた立派なもの。車庫があり、石川線の輸送上の中枢でもある。
かつて鉄路が結んでいた一の宮、白山方面へは、現在はバスが結んでいる。
残念ながら今回は時間の関係上、すぐに折り返すことにする。休日のためか、観光客らしき乗客もちらほら。往路の下り列車よりも乗客数は多い。
野町駅に戻ってきた。2分の接続で市内中心部方面へのバスが出る。多くの乗客はJR乗換の新西金沢駅で下車してしまったので、ここでバスに乗り換えた乗客は多くは無い。
乗り換えの乗客を乗せてすぐにバスは発車。10分ほどで金沢の繁華街、香林坊に到着した。
感想
金沢市では現在、公共交通を活用した”新しい交通システム”の導入を検討している。2017年4月に「金沢市新しい交通システム検討委員会」が立ち上げられ、専門家等による検討の結果、2018年2月に提言書がまとめられた。その中で、”金沢港-金沢駅-香林坊-野町駅”を軸として「BRT(バス高速輸送システム)」や「LRT(次世代型路面電車システム)」の導入が適当であると提言されている。
これが実現すれば、野町駅を起点とする石川線も利用促進が図られることは間違いないであろう。
もしLRTが導入されるとすれば、石川線との相互乗り入れを実現すべきであると思う。現在の普通鉄道車両と、LRTの低床車両とでは床面高さ等の規格が異なるが、ホームを低床化改造すれば可能である。実際、そのような事例は隣県福井にある。
もちろんそれなりの事業費は必要となるが、この地域の公共交通網全体の効用が高まることが期待されるので、そのような投資は惜しむべきではない。
一方、野町駅における現在の鉄道とバスの連携方法については非常に参考になる。ターミナルが圧倒的に不利な位置にありながら、この路線が現在も生きながらえているのは、不利な状況をカバーするモード間の連携がしっかりとれているからであると思われる。なかなかここまでできている事例は多くない。
特にモード間で事業者が異なると、お互いの利害関係が衝突し難しい問題となるが、今後の公共交通の維持発展にとっては避けて通れない道である。
公共交通が営利企業によって運営されることの是非も含め、大いに議論していくべきであろう。
コメント
やはり石川線は600ボルト電圧で残したメリットを生かし、LRT化すべきであろう。
建設費はかかるが、ドイツやベルギーのような、路面地下電車線を野町から、建設し、片町、香林坊、武蔵ケ辻、金沢駅、を経由し、駅北の県庁付近から地上を入らせ西念、金沢港へ向かう。
浅野川線は1500ボルトの鉄道線のままので良いと思う。
コメントありがとうございます。おっしゃるとおりLRT化のメリットは大きいと思います。フランクフルトやブリュッセルのように都心部だけ地下にする方式が理想かもしれませんね。