「名古屋から最も近い島」として知られる、三河湾に浮かぶ篠島(しのじま)と日間賀島(ひまかじま)。知多半島と渥美半島から高速船を使って気軽に日帰り離島の旅を楽しむことができます。今回、渥美半島側から両島を通り抜ける形で知多半島に向かいました。風景と海の幸を楽しみながら、鉄道、バス、船を乗り継いで行く旅の様子を詳しくお伝えします。
旅行記(続き)
篠島散策
僅か30分足らずの航海ではあったが、船を降りて島に足を踏み入れると、何となく遠い外国の地に着いたような気がする。非日常感が増幅される離島の旅の醍醐味だ。
この篠島は、三河湾に浮かぶ面積0.93㎢、周囲6.7kmの島。全域が愛知県知多郡南知多町に属する。島内の交通手段は乗合タクシーとレンタサイクルがあるが、小さな島なので観光は徒歩で十分だ。
篠島の魅力は、島の自然と海の幸。特にしらすの水揚げ量は日本有数で、島内の食堂で生のしらすを頂くこともできる。
さて、島内を散策してみることにする。伊良湖からの便は3本のみだが、ここから日間賀島、師崎へは便数が多いので、あまり時間を気にせずにゆっくり回ることができる。一つ気掛かりなのは天気が持つかどうか。
右手に漁港を眺めながら島の中心部に向かって足を進める。旅客船乗り場がある島の北部は埋立地であるため、道路が直線で街並みもやや無機質。なお、途中に島唯一のコンビニ「TAC-MATE」の店舗がある。必要なものはここで調達することが可能。
旅客船乗り場から10分ほど歩くと、住宅や商店が密集する島の中心部に着く。郵便局、漁協、診療所など生活に必要な施設もこのあたりにまとまっている。ただし、今日は休日なので各施設は閉まっており、人影はほとんどない。
郵便局を過ぎると広場的なスペースに出る。ここからビーチがある島の南東側に抜けることができる。道が微妙な感じで二つに分かれているが、どちらを進んでも大差ない。地図無しで冒険的に歩いてみるのも面白い。
左手の道を進むと途中に神明神社がある。伊勢神宮の古材を用いて20年ごとに建て替えられるとのこと。
路地を抜けるとビーチに出た。緩やかに弧を描く全長約800mの美しい砂浜で、「前浜(ないば)サンサンビーチ」と呼ばれている。
ビーチ沿いにはホテルや民宿、飲食店などが点在している。夏場には大勢の海水浴客で賑わうことであろう。
「名古屋城築城採石地」の説明看板が立っていた。1610年に名古屋城の築城が開始されると、城普請の総大将、加藤清正により石が切り出されたとのこと。島内の各所で切り出された後の残石が残っている。
時刻は12時を回った。そろそろお腹が空いてきたので、お目当てのシラス丼を頂くことにしたい。
今来た道を戻るのも面白くないので、ビーチを背に細い道を登っていく。生活感溢れる小径だ。
島の背骨に当たる尾根上まで道は続く。途中から階段となり、高度をぐんぐん上げていく。
自動車が通行可能な尾根道に出た。島の最高地点(49.1m)に程近い所。思ったより起伏の激しい島であることが良く分かった。
しばらく北上すると、車道が途切れ、再び生活感溢れる小径を進む。車よりもバイクの方が生活の足としては便利そうだ。
階段より左手下方にお寺が見えてきた。ここは龍門山正法寺、曹洞宗の禅寺である。知多四国霊場38番札所の案内表示がある。
再び郵便局前の通りに出た。島北部の埋め立ての新興市街地の中に、美味しいしらす丼が食べられる店があるという情報を得たので行ってみよう。
名物しらす丼をいただく
店の名は「漁師民宿 たから舟」。漁師さん直営の民宿兼食堂のようだ。
ドアを開けて中に入ると、食堂らしき気配は全く感じられない。本当にここで食事ができるか不安になったが、出てきた旦那さんに尋ねると二階に案内してくれた。
数部屋ある民宿の客室が食事場所となっている。別室には家族連れの先客がいる様子。
今日は残念ながら生しらすは無いとのことで、釜揚げしらす丼(1,200円)を注文した。
待つこと約20分、お食事が到着。期待通りのお味で、あっという間に平らげてしまった。
食事が終わり店を出たのは13時頃。天気は下り坂で、予報ではこの後雨になる模様。まだまだ篠島には見どころがあるが、いつ雨が降り出してもおかしくないので、次の目的地、日間賀島へ急ぐことにする。
篠島から日間賀島へ
旅客船乗り場に戻ってきた。ターミナル施設は「島の駅」と名付けられている。内部は切符売場と待合ロビー、観光案内所、コインロッカー、売店・食堂など一通りの設備がある。
次の日間賀島行きの便は13:25発。中途半端な時間帯だが乗客はそれなりに多い様子。
13:23乗船開始。1番乗り場の船に乗り込む。
船名は「海鴎12」。先ほど伊良湖からの便で乗った「はやぶさ」型より一回り小さい高速船で、2008年建造、総トン数19トン、旅客定員は93名。
13:25、定刻に出港。船室は満席で、デッキで立ったまま我慢の航海。
わずか8分後の13:33、日間賀島東港に到着した。
日間賀島散策
日間賀島は、篠島の北方にある面積0.773㎢、周囲6.6kmの島。篠島と同じく愛知県知多郡南知多町に属する。
タコ漁が有名で、「タコの島」として知られている。港ではタコのモニュメントが旅行客を歓迎している。
島内の移動手段はレンタサイクルもあるが、篠島と同じく徒歩でも十分だろう。起伏があるので運動不足の体には少々きつい。
島内には、「東港」と「西港」の二か所の高速船発着場がある。この東港は島の南東部に位置し、周辺に数件の民宿や売店、食堂などがある。
港前の信号機付きの交差点をを渡った所に、切符売場・待合所の建物がある。内部は窓口が一か所とベンチが並ぶ待合スペース、コインロッカーがある。まるで昭和の時代のバス営業所といった雰囲気。なお、この信号機は三河湾に浮かぶ離島で唯一のものだとのこと。
雲行きがかなり怪しくなってきた。じっくり島内を散策したいところだが、その時間は無さそうだ。とりあえず島の北側にある日間賀島資料館に行ってみることにする。
高台にある呑海院というお寺の脇道を進む。坂を上り3~4分ほど歩くと大型観光ホテルが建つ一角に出る。ここに島唯一のコンビニ「TAC-MATE」の店舗があった。
コンビニから更に北上し坂を下ると、資料館に到着した。港からはゆっくり歩いても10分もかからない。
入場は無料で開館時間は9:00~17:00。主に島の漁業に関する解説と漁具などが展示されている。小さな資料館なので、興味が無ければ見るべきものは少ないかもしれないが、時代によるタコ漁法の変化や蛸壷の材質や形状の違いなど、なるほどと思う展示もある。
資料館を出た所で、とうとう雨が降り出してしまった。急ぎ足で西港に向かう。
島の北側は主に漁業基地となっていて、船溜まりには多くの漁船が停泊している。
岸壁上には蛸壺が並べられている。現在はプラスチック製のものが使われ、島の周りには約10,000個の蛸壺が仕掛けられているとのこと。先ほどの資料館で仕入れた知識である。
急ぎ足で10分ほど歩くと西港に到着した。こちらは先ほどの東港とは異なり、大型ホテルやレストラン・カフェなどが建ち並ぶ”都会的”な場所だ。
この西港は本土からも近く、島の玄関口といえる。師崎港、河和港とを結ぶ便がひっきりなしに発着する活気のある港だ。
驚いたのは篠島や東港では見られなかった人の多さ。乗船を待つ人々の列がターミナルの外まで伸びている。
雨は降ったり止んだりを繰り返していたが、更に悪化する予報なので、時間は少し早いが本土の師崎に向かうことにした。
次の便は14:45発。少し時間があるのでターミナル前の店をのぞいてみることにする。
名物「多幸まんじゅう」を製造販売する土産物店や、魚介料理のレストラン、おしゃれなバルなど様々な店があり、どこも人で一杯。
せっかくなので、「鈴円本舗」さんでたこ串(300円)を頂く。このような食べ歩きも旅の醍醐味。
日間賀島から師崎へ
14:30を回ったところで、ターミナルに戻る。相変わらず船を待つ乗客の列ができている。最後尾に並ぶが、果たして満席になる前に乗れるだろうか。
しばらくして、定期便の前に臨時便が出るとのアナウンスが聞こえてきた。桟橋には2隻の高速船が並んでいるが、うち1隻は団体専用便で、ツアー客を乗せるとすぐに出港していった。
14:37、臨時便乗船開始。残念ながら直前で満員となってしまった。14:39、臨時便が出港していく。
再びアナウンスがあり、14:45発定期便は東港出港時点で満員のため乗船不可とのこと。何とも運が悪いと思ったが、先ほど団体専用便で師崎に向かった船が臨時便として戻ってくることに。
若干遅れて定期便が出港した後、師崎からの臨時便が到着。そのまま折り返し師崎行きとなる。
無事乗船に成功。船は先ほど篠島から乗ってきた便と同じ「海鴎12」。
14:57、満員となった臨時便が出港。15:06、師崎港に到着した。
師崎から河和へ
師崎港を発着する路線バスは3系統。知多バス師崎線、南知多町コミュニティバス「海っこバス」豊浜線及び西海岸線、いずれも河和駅行き(西海岸線は内海駅を経由)で1時間に1本程度の便がある。河和駅までは所要時間が短い師崎線が最も便利だが、電車乗り継ぎで名古屋方面に向かう場合は、時間帯により内海駅を経由する方が早いこともある。
15:10発の師崎線河和駅行きにギリギリ間に合った。バス乗り場はターミナル建物の目の前にあるので便利だ。
バスは定刻に発車。三菱ふそうエアロスターのワンステップ車で、名鉄系らしく白いシートカバーが付けられている。
車窓からは海を臨むことができるが、あいにくの天気であったため灰色の海が広がっていた。
若干遅れて河和駅に到着した。運賃は300円、交通系ICカードは使えないので現金で支払う。
バス乗り場は駅舎と直結され、バスと電車の乗り継ぎには非常に便利な構造だ。
なお、日間賀島直行便が発着する河和港は駅から徒歩7分の場所にあり、無料のシャトルバスも運行されている。河和港経由は師崎経由よりも所要時間は短いが、トータル運賃は師崎経由の方が安い。
名鉄電車で帰途に就き、今回の旅は終了となった。
感想
鉄道、バス、船を乗り継いでの離島の旅。クルマ利用では不可能な今回のような”縦断型”のルートは、変化に富んだダイナミックな旅を楽しむことができる。
大都市から近いこともあり観光地的な要素が強い両島であるが、小さな路地に入ると島の人々の生活振りを垣間見ることができ、社会勉強にもなることであろう。
交通モード、事業者が異なっても、それぞれが有機的に結びつき、乗り継ぎも分かりやすくスムーズな移動が可能であった。名鉄グループという一つのまとまりであるから”成せる技”なのかもしれないが、交通連携のお手本の一つであるといえよう。このブログで何度も申し上げているが、交通は”普遍性”が命である。
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