その2に引き続き、特快T7次の旅の様子をお伝えします。いよいよハイライト区間の「宝成線」へと入っていきます。中国鉄路有数の”絶景区間”の景色をお届けします。
乗車データ
項目 | データ |
---|---|
事業者 | 中国鉄路総公司(CR) |
路線 | 京広、石太客専、太中、包西、隴海、宝成線 |
列車番号 | T7 |
乗車駅 | 北京西 |
降車駅 | 成都 |
出発時刻 | 予定16:40 実際16:40 |
到着時刻 | 予定翌20:36 実際翌20:43 |
所要時間 | 28時間03分 |
乗車クラス | 軟臥車 |
表 T7次の停車駅及び時刻(2019年8月現在)
停車駅 | 到着時刻 | 発車時刻 |
---|---|---|
北京西 | - | 16:40 |
保定 | 18:00 | 18:04 |
石家荘北 | 19:30 | 20:03 |
太原南 | 22:15 | 22:22 |
吕梁 | 23:54 | 23:58 |
延安 | 3:01 | 3:06 |
西安 | 6:21 | 6:41 |
宝鶏 | 8:22 | 8:32 |
鳳県 | 10:41 | 10:43 |
両当 | 11:11 | 11:13 |
徽県 | 11:31 | 11:36 |
略陽 | 12:52 | 12:55 |
広元 | 15:37 | 15:46 |
綿陽 | 19:04 | 19:08 |
成都 | 20:36 | - |
乗車体験記
宝成線 秦嶺山脈を越える
8:43、分岐点の宝鶏駅を定刻より11分程遅れて発車。ここから終着成都までは宝成線を進む。隴海線と別れてすぐに黄河支流の渭河を渡る。
最初の駅、任家湾を通過。駅の真上には隴海線に並行し西域に向かう「徐蘭高速線」の高架が走っている。西遊記のモデルになった玄奘三蔵が天竺を目指した道を、高速列車が駆け抜ける。
列車は急勾配に差し掛かる。秦嶺山脈を越える区間は最急勾配33‰(1000m進むと33m上る)、更に急曲線も多いため、列車の速度は上がらない。
前方を見ると2両の電気機関車が牽引している。宝鶏で補助機関車(補機)が連結されたのであろう。
なお、宝鶏-鳳州間は、1960年、中国国鉄としては初めて電化された区間である。四川省に向かう大動脈として、当線の電化による輸送力の増強は当時としては喫緊の課題であった。
9:10頃、谷間の小駅、観音山駅で停車。旅客扱いを行わない”運転停車”だ。対向列車とすれ違う。当線は起点の宝鶏駅から途中の陽平関駅までの区間は今でも単線となっている。
この観音山駅から秦嶺駅までの18km区間は、秦嶺山脈を越える山越え区間。当線きっての難所で、勾配をしのぐために線路が”らせん状”になっている、いわゆる”ループ線”の区間。上の写真では電線が重なりやや見にくくなっているが、谷を挟んだ山の中腹に、これから通っていく線路が見える。
列車は車輪をきしませながら、ゆっくりと進む。やがて眼下には、先ほど停車した観音山駅が見えてくる。
トンネルを抜け視界が開けると秦嶺駅に到着だ。今までの急峻な地形とはまるで別世界のようだ。ここでもしばらく運転停車。宝鶏駅から連結された補助機関車はここで切り離された模様。
宝成線 嘉陵江の景色
約15分程停車し秦嶺駅発車。ここからは、長江最大の支流、嘉陵江に沿って高度を下げていく。先ほどまでは、黄河の支流に沿って登ってきたので、黄河と長江の分水嶺を通過したことになる。
このあたりは嘉陵江の源流に近いが、地形は極めて穏やか。線路に並行して省道が走っているが、交通量は多くない。
紅花鋪駅を過ぎると谷がやや険しくなる。川は激しく蛇行するので、線路は橋とトンネルでショートカットする。
谷が広くなると、人家が増えてくる。やがて列車は鳳州駅を通過。ホームでは赤と緑の旗を持った運転職員(助理値班員)が列車の通過を監視する。
進行右手には、山腹に大きなお寺が見えてくる。唐代建立された「消災寺」だ。このあたりは国家旅遊景区に指定されている。
10:54、宝成線内最初の停車駅、鳳県駅に到着。ホームには大勢の乗車客が列車を待っていた。
ここは鳳県の中心部。駅はビルが立ち並ぶ都心からはやや離れた場所にある。
11:00鳳県駅発車。列車は束の間の”都会”を後にし、再び谷間の隘路を進む。
宏慶付近から、しばらく甘粛省内を通過する。線路は橋とトンネルが連続する険しい地形を走る。
11:29、甘粛省隴南市にある両当駅に到着。定刻より18分遅れている。ここでも大勢の乗客が列車を待っていた。
11:33両当駅発車。谷間の小駅といった風情。僅かな平地に建物が密集している。
11:51徽県駅到着。ここも甘粛省隴南市に所在する。当駅でかなりの人数の降車客があった。一見”時代遅れ”の客車列車も、高速交通網の恩恵に預かれない地域の人々にとっては外部に繋がる貴重な足なのであろう。
この辺りの車窓はまさしく”絶景”だ。列車は何度も嘉陵江を渡っていく。この険しい地形は災害のリスクも高いであろう。新線に切り替えられた区間も多い。
虞関駅を通過すると、再び陝西省へと入る。
餐車で昼食
さて、小腹が空いてきたので、昼食をとることにする。餐車(食堂車)で絶景を見ながら食事ができる。
何度か通い顔なじみになった餐車長が出迎えてくれる。牛肉の炒め物とライスをオーダー。57元。ややしょっぱ辛いがなかなかのお味。ライスはお代わり自由。
餐車ではこのような本格中華料理が楽しめる。3名のコックが厨房で中華鍋を振っているのが見える。28時間の道中には食事の時間帯が4回もあるので、餐車は必需である。
なお、餐車は乗務員の休憩場所にもなっている。始発駅から終着駅まで乗り通しなので、息抜きも重要だが、食事時の混んでいる時間帯は乗客優先にすべきではなかろうか。
宝成線 四川省へ
13:03略陽駅到着。ここでも大勢の乗客が下車していった。ここ略陽県は、陝西省漢中市の北東部にある。陝西省内最後の停車駅だ。
13:08略陽駅を発車。13分ほど遅れている。
この辺りまで来ると、嘉陵江の水量もかなり増えている。長江の最大支流としての風格が出てきた。
やがて進行左手対岸には線路構築物が見えてくる。これから合流する「陽安線」の旧線跡と思われる。同線は現在線路付け替えの上複線電化され、長大トンネルで駆け抜けている。
滅火溝線路所(信号場)で陽安線への短絡線を分岐。やがて複線電化の陽安線が左手から合流すると、分岐点の陽平関駅だ。
T7次は陽平関駅通過。ここから複線電化区間となる。
丁家壩駅を通過すると、いよいよ四川省へと入る。左手には立派な高速道路が寄り添ってくる。
冉家河でしばらく運転停車。西安鉄路局の管轄はここまで。成都鉄路局にまたがるので列車の運行調整か。
冉家河を発車すると、すぐに左手に立派な高架線路が現れる。西安と成都を結ぶ「西成客専線」だ。最高速度250km/hで両都市間を3時間半~4時間程度で結ぶ。
15:34、広元駅に到着。定刻より3分早い。いつの間に遅延から回復したのであろう。
広元市は市区人口100万人の大都市。市内中心部は高層ビルが立ち並ぶ。広元駅は「宝成線」と「西成客専線」、蘭州と重慶を結ぶ「蘭渝線」が接続する鉄道の要衝。
広元駅ではかなりの乗客が下車した。隣のホームにははちょうど成都方面からの高速列車が到着。この情景はまるで日本の新幹線駅のようだ。
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