福島県中部、通称「中通り」の南部を走る、JRバス白棚線。廃線となった鉄道線路敷をバス専用道に転用していることで知られています。
今回は、新白河駅から水郡線との接続駅、磐城棚倉駅まで、実際に乗ってみました。更に、磐城棚倉駅で水郡線に乗り換えて郡山まで向かいました。
BRTのルーツともいえる「鉄道的バス」の様子を詳しくお伝えします。
基本情報
概要
白棚線は、棚倉町祖父岡から磐城棚倉駅を経由し白河駅を結ぶ、ジェイアールバス関東のバス路線である。
1944年(昭和19年)までは、国鉄白棚線として鉄路が走っていたが、太平洋戦争の激化に伴い、”不要不急路線”とされ資材供出の目的で鉄路は廃止されてしまった。
戦後10年が過ぎた1957年4月、地元の要望により、旧線路敷を転用して国鉄バス「白棚高速線」として開業した。当時としては画期的な専用道による高速運転が行われ、国鉄の輸送近代化の試金石とされた。1972年の最盛期には、年間255万人の輸送実績を達成している。
その後、道路網の整備とモータリゼーションの進展により、輸送人員が下落。縦横に延びていた支線網も次々と廃止されていった。
1987年4月国鉄分割民営化、翌4月にはジェイアールバス関東による運営となり、現在は同社の白河支店が運行を担当している。
2008年には年間47万人、2015年には年間34万人まで輸送人員が落ち込んだが、依然として沿線の棚倉町、白河市により、広域基幹路線として重要視されている。
路線図
運行状況
磐城棚倉駅と白河駅の間に、平日20往復、土休日17往復の便がある。日中概ね1時間ヘッドと、JRバスの地方路線の中では運行本数が多い。ちなみに、最盛期の1974年には、棚倉→白河行31便、白河→棚倉行35便もの本数があった。
一部便は、磐城棚倉駅から祖父岡まで足を延ばす。また、白河市内は路線がループ状となっており、朝夕の通勤通学の便を図っている。
乗車体験記
新白河駅の様子
お盆の大型連休の初日。東北本線下り普通列車は帰省客で混雑していた。黒磯から乗り継いだ新白河行4143Mは、5両編成にもかかわらず立客がいるほど。
15:44、新白河に到着。ここで降りたのは何年振りであろう。改札口を抜け、正面出口(東口)のバス乗り場へと向かう。
橋上駅舎の階段を下りると目の前にバスが見える。さすがJRバス、駅前一等地に乗り場がある。
駅舎側から手前1番乗り場が白河方面、奥の2番乗り場が磐城棚倉方面。すでに2番乗り場には数名の乗客がバスを待っていた。
次の磐城棚倉駅方面祖父岡行は、16:00ちょうどの発車。バス停ポールには時刻表が掲示されているが、”お盆”と”夏休み”臨時ダイヤの時刻表が上貼りされていた。今日は”お盆”ダイヤが適用されるので、15:00発の便は運休だ。
停留所上家には路線案内図が掲げられている。やや年季が入っており、廃止されてしまった区間がテープで隠されているのが痛々しい。
乗り場には10数人程度の乗客が待っている。時間帯にしては乗客数が多いように感じた。
白棚線に乗車
ほぼ定刻にバスがやってきた。白河駅が始発なので、すでに数人の乗客が乗っている。整理券方式なので入口は後部ドア。
バスはすぐに発車。駅前ロータリーを出て、国道289号線に向かう。
国道289号線に入り、しばらくは道なりに進む。かつては白河・棚倉間の大部分がバス専用道であったそうだが、道路改良等で専用道が縮小化され、現在は関辺-磐城金山間と表郷庁舎前-三森間の2区間を残すのみとなっている。
新白河駅を出てから16分後、最初の専用道区間に入っていく。専用道に入るとすぐに関辺停留所がある。
専用道は完全1車線だが、行き違いのための待避所が数百メートルおきに設置されている。かなりの本数の運行が可能な構造だ。
多くの停留所には立派な待合所や上家が建てられている。雰囲気としては、バス停というより小さな鉄道駅。
バスは専用道を快調に走る。道幅は狭く舗装状態もあまり良くないので速度は高くないが、信号機が無く、また一般道との交点は基本的にこちらが優先なので、運行はスムーズだ。ただし、県道中野番沢線との交点は県道優先で、バスは一時停止が義務付けられている。
この専用道の敷地は当然国鉄→JRの管理地なので、敷地境界には鉄道と同様”工”の字が刻印された用地境界標が建てられている。
バスは番沢停留所に到着。白棚線を象徴する場所としてよく写真が紹介されている場所である。
松上停留所を過ぎると、最初の専用道区間が終了し国道に戻る。なお、一般道との交点には、「JRバス専用道路 一般の人・車通行禁止」と書かれた看板が立てられており、誤進入を防止している。
すぐに磐城金山停留所に到着。”かねやま”と読む。ここはかつて”自動車駅”として窓口営業が行われていた。本来なら「磐城金山駅」と表記すべき所。待合所には鉄道駅のような立派な駅名標が掲げられている。
かつて専用道であった敷地の一部は、国道289号バイパスに転用されたようだ。ここ磐城金山から表郷庁舎前までの国道区間も、元は専用道の敷地であったと思われる。
表郷庁舎前から再び専用道に入っていく。
最初の専用道区間より、”狭隘度”が増しているような感じがする。木立の中の細い道をバスは進む。
三森停留所手前で再び国道に戻る。この辺りの国道区間も元専用道路敷であったようだ。
以後は終点まで一般道を走っていく。途中、金沢内・浅川口間にあった専用道区間は、災害により2000年に廃線となった。
磐城逆川停留所を過ぎ、逆川交差点を右折。ここから棚倉市街までは福島交通白河棚倉線との競合区間となる。
16:46、定刻より4分ほど遅れて磐城棚倉駅に到着。こちらも駅舎入口の目の前にバス停がある。やはりどこの駅も、JRバスは”待遇”が良い。
多くの乗客が白河からここまで乗り通してきた。やはりこの路線は地域間連絡の性格が強いようだ。新白河からの運賃730円を運賃箱に入れ、下車する。残念ながらSuica等のIC乗車券は使えない。
磐城棚倉駅の様子
棚倉町は、旧棚倉藩の中心地として栄えてきた。町内には国の史跡に指定されている棚倉城跡がある。
磐城棚倉駅は水郡線の中間駅。町の中心部からやや北に外れた所に位置している。商店等はあまりなく駅前は寂しい。
駅前広場を出て県道の交差点付近に、「甘盛堂」というお菓子屋さんがあったので寄ってみた。クチコミではイチゴ大福が有名とのこと。小腹がすいていたのでお菓子を数点購入した。旅先で名菓を食すのは旅の楽しみの一つ。
駅前には町立の図書館がある。列車の到着までまだ時間があるので入館してみる。白棚線に関する資料があったので、お金を払って複写してもらった。
駅にもどる。既にだいぶ陽が傾いてきている。学生も休みなので、ほとんど利用客はいない。待合室のど真ん中には特産品のショーケースがある。一体誰が見るのであろうか。
出入り口付近には立派な運行情報案内器がある。水郡線内を走っている列車の運行状況がリアルタイムで把握できる優れものだ。これから乗る17:19発337D郡山行は3分遅れとのこと。
ホームに向かう。駅舎の壁にはバスの乗換案内標識がある。これもJRバスならでは。国鉄時代は鉄道とバスは一体となって全国路線網を形成していたが、現在のJRバスは高速路線に重点を置いており、一般路線バスは激減してしまっている。
駅構内は島式ホーム1面2線のシンプルな構造。年代物の跨線橋を渡る。
水郡線に乗車
17:22、3分遅れで337Dが到着。車両はJR東日本第二世代の気動車、キハE130系。
磐城棚倉からの乗車は3名のみ。車内も非常に空いていて空席が目立つ。
水郡線に乗ったのは何年振りであろうか。山深いわけではないが、起伏がある地形で車窓は変化に富んでいる。美しい日本の原風景の中を列車は進む。
それにしてもこの水郡線、”スリム化”がかなり進んでおり、磐城棚倉と安積永盛間の行き違い可能駅は、磐城石川と谷田川の2駅のみとなってしまっている。
列車は安積永盛から複線電化の東北本線に乗り入れる。1駅で郡山に到着。水郡線用の切欠きホーム3番線にゆっくりと滑り込む。
郡山駅は、なつかしい”国鉄”の雰囲気に満ちている。荷物専用の跨線橋「跨線テルハ」、重厚長大な「スパン線ビーム」、転車台などなど。子供の頃に見た駅の情景がよみがえってきた。
感想
年々輸送人員が減少傾向にあるとはいえ、地域の方々の重要な足になっている白棚線。今回乗ってみた実感として、地域間の広域輸送及び新幹線の二次交通としての役割を十分に果たしていると感じた。
やはり、専用道の活用で、ある程度の定時性が確保されている点が大きいのかもしれない。
とはいえ、各自治体ごとに個別に取り組んでいる公共交通活性化策においては、このような複数の自治体にまたがる広域路線は扱いが難しいのではないだろうか。
沿線の白河市及び棚倉町においては、個別に公共交通マスタープランが策定されている。それぞれ白棚線の活性化について検討はされているが、公表されている資料を見る限りでは、両者が密接に連携している様子は見られない。
広域的な交通政策としては、複数の自治体が参加して「地域公共交通網形成計画」を策定している事例もある。しかし、これも地域をどのように「切り分ける」のか、難しい問題もある。
今後、沿線自治体がどのようにこの白棚線を盛り上げていけるのか、動向に注目していきたい。
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