2019年10月から11月まで、二か月間限定で実施されている「志摩MaaS(マース)」第1回目の実証実験。「その1」に引き続き、旅の様子をお伝えします。
旅行記(続き)
定期路線バスで大王埼灯台から御座港へ
大王埼灯台から再び三重交通の定期路線バスに乗り、志摩半島(さきしま半島)の先端部、御座港を目指す。
12:44、ほぼ時刻表通りに御座港行のバスが来た。
乗客は筆者を含めて4名。筆者以外は地元の方と思われる。
バスは旧大王町の中心部を通り、再び国道260号線に入る。左手に海が間近に見えてきた所で右折、船越の集落に入っていく。
集落内は狭隘区間となっており、小型車との離合も大変だ。大型のいすゞエルガを操る運転士の苦労も多かろう。
一旦国道に戻り、すぐに旧道の「ゆうやけパール街道」へと入っていく。再び左手に海が望める。
この道も集落内は狭隘区間となる。人通りの少ない集落内の商店は、多くがシャッターを閉じてしまっている。
旧志摩町の中心、和具にある「和具漁港」は三重県内でも屈指の規模を誇る漁港とのこと。途中下車して港町をゆっくり散策するのも面白いかもしれない。なお、町の中心部から北に10分程歩いた英虞湾側の船着き場からは、間崎島経由賢島行の定期船が出ている。
やがてバスは、美しい砂浜で有名な「あづり浜」を通過する。バス停の目の前に絶景が広がる。湾内に浮かぶ「すずめ島」と夕日のコラボは必見とのこと。近くに海女体験施設「さとうみ庵」があり、現役の海女さんからお話を伺いながら食事ができるそうだ。
ジャングルのような森の中を通り、谷が開けてくると御座の集落に入る。バスは御座白浜海水浴場の近くを通過する。文字通り白い砂浜が美しい海岸だが、シーズンオフのため人影は無い。
小さなサミットを超えると、御座の中心集落へと入っていく。左手に漁港を望み、国道260号線と合流すると終点御座港の停留所。13:26時刻表通りの到着であった。
バス停の目の前に英虞湾定期船の船着き場がある。ここから賢島~御座~浜島航路が発着している。
先ほど乗ってきたバスは回送車として発車して行った。周囲には数件の飲食店があるが、営業している様子は無い。
デマンド航路で御座港から間崎島へ
さて、これからどうしようか。定期船を利用しても良いが、せっかくなので「志摩MaaS」実証実験の目玉一つ、デマンド航路「海上タクシー英虞湾マリンキャブ」に乗ってみたい。
「志摩MaaS」のサイトで路線図を見ながら検討。御座と賢島の間にある間崎島が気になる。しかし、御座から同島に直行する航路は描かれていない。
試しに経路を検索してみると、マリンキャブで直行できるようなので、早速予約した。デマンドバスと同様、会員登録をすると簡単に予約できる。約30分後に迎えに来るとの案内。
少し時間があるので周辺を散策してみる。バスで来た道を少し戻ると、公衆トイレと自動販売機がある。
さらに歩くと漁協の大きな建物がある。その脇道を入ると、白い鳥居が現れた。「御座浦石仏地蔵尊」の説明板がある。奥に進むと海の中にお地蔵さんが。海中にある地蔵尊はここが唯一であろうとのこと。
マリンキャブは14:12到着予定だが、早めに来ることも予想されるので船着き場に戻る。ちょうど14:00発の浜島行定期船が入港してきた。
13:58発の鵜方行バスも停車している。バス時刻表は定期船到着より2分早い発車となっているが、船の到着を待って発車して行った。正規に接続しているのか、便宜で待ってあげていたのかは不明。
下船客はゼロ。浜島に向け定刻14:00に出航して行った。直後に、入れ替わるように白いボートが到着した。
側面に「英虞湾マリンキャブ」と書かれているので、予約した船であろう。予定より11分も早い到着。
名前を呼ばれ予約を確認、早速乗り込む。運賃は1,500円で乗船時に支払い。
ボートの型式はニュージャパンマリン製”NSC265”。新しくて格好いい双胴船である。この実証実験のために1艘だけチャーターしたものだそうだ。
船室内には客席があり、数名分の座席があるが、船室外のデッキに座っていて良いとのこと。ただし、水しぶきに注意。
14:06出航。穏やかな英虞湾内をボートは快走する。
天気も良いので最高に気持ちいい。”海の男”になった気分。手軽にこのような体験ができるのも「志摩MaaS」ならではのこと。
このボートの運行事業者は、英虞湾定期船や遊覧船「エスペランサ」を運行する「志摩マリンレジャー」。近鉄グループなので、はためく社旗も近鉄マークに似ている。
乗船時間は20分の予定であるが、13分ほどで間崎島に到着した。船員に話を聞くと、所要予定時間は定期船の速度で算出したが、チャーターしたボートは定期船より高速なので実時間はかなり短くなるとのこと。迎えが早かったのもこのため。
何と、このマリンキャブの利用者は筆者が初だったとのこと。予約が入った時はビックリしたそうだ。実証実験は始まったばかりであり、周知されるまでは時間がかかると思われる。
間崎島の様子
間崎島は面積0.36㎡の小さな島。ウィキペディアによると人口は89人(2016年)。最盛期には668人もの人が住んでいたが、現在は過疎化と住民の高齢化が進んでいるとのこと。
賢島~和具間の定期船が間崎島を経由する。便数は9往復と比較的多いので交通の便はそれほど悪くは無いが、賢島発の最終便は17:30と早いので、日常の通勤・通学にはやや使いにくいであろう。
15:25発の賢島行定期船に乗ることにする。約1時間あるので、島内を散策してみる。
船着き場から自動車が通れる舗装道路が東に伸びている。坂を登ると尾根道になる。
しばらく歩くと小学校の跡地に出る。2006年に廃校になってしまったとのこと。かつて校庭であった広場は避難場所になっており、防災倉庫が建てられている。
途中に小さな休憩所があった。ヒノキの良い香りがする。そばにある石碑には「後世に 想い託して 植ゑ付けし 桧の山よ 伸びよ太れよ」と詠われている。
このような小さな島で不法投棄があるとは。。。
わずかながら畑もある。年配の女性が農作業していた。
約20分ほど歩くと民宿の案内看板がある。この先進んでも何もなさそうなので、引き返すことにする。
住宅が密集する港の北側を歩いてみる。人の気配は無く、9割以上が空き家になっているように見える。
アップダウンがある細い路地は迷路のようだ。しばらく歩くと島唯一の金融機関、間崎簡易郵便局があった。日曜日なので当然休業。
北側の船着き場に出る。真珠の養殖施設「真珠筏(いかだ)」が見える。
遠くに賢島のホテルが見える。2015年に伊勢志摩サミットが開催された場所だ。出席した各国首脳は、この目の前にある過疎の島の存在を認識したのであろうか。
さて時間になったので定期船の船着き場に戻る。そばには「間崎島開発総合センター」という立派な建物がある。周辺は海水浴場・公園になっており、南国リゾートの雰囲気がある。
船着き場の前には「YUUKAI CLUB MASAKI ISLAND」という外国人向けの施設があった。英語の案内板が掲げられている。
住民向けの掲示板には「もやい」という小売店の営業案内が貼られている。月・水・金の午前中のみ開店とのこと。
三重県主催によるドローンを用いた配送実験説明会のポスターがあった。「空の移動革命」と銘打たれている。高齢化・人手不足で離島の物流問題も深刻化している。
定期船の待合所横には島唯一の飲料自動販売機があった。のども渇いていたので1本購入する。今日、この島で自分ができる唯一の経済活動であろう。
定期船で間崎島から賢島へ
15:28、定刻よりやや遅れて定期船が到着。筆者の他に2名の乗船客がいた。
すぐに出航。和具からの乗客は1名、都合4名の客数。船内はガラガラだ。
途中、遊覧船「エスペランサ」と離合する。こちらは観光客で満員の様子。
13分ほどで賢島港に到着。間崎からの運賃は380円だが、支払いは賢島港切符売り場の券売機で間崎までの乗船券を購入し係員に渡す方法であった。片道1回限りの利用はあまり想定されていないのであろう。
鉄道で賢島~鳥羽~名古屋へ
港から駅までは徒歩1分。駅前には真珠店が並んでいる。
とりあえず鳥羽まで普通電車に乗ることにする。次は16:15の発車。ちょうど近鉄の看板列車「しまかぜ」が発車するところであった。
手狭な南口に比べ北口は立派なロータリーがあり、観光客は主にこちらを使う。
駅舎2階には、伊勢志摩サミットの展示施設「伊勢志摩サミット記念館」がある。
16:15発の伊勢中川行きに乗車する。2両編成のワンマン列車だ。
乗客は片手で数えられる程度。大私鉄近鉄も末端部のローカル輸送は厳しい状況である。
16:54、鳥羽に到着。今回はここから名古屋までJRの快速「みえ」に乗車する。
朝以来食事を摂っていなかったので、駅前の食堂に入る。地元答志島産の”しらす”を使った、”しらす丼”をおいしく頂く。
この鳥羽駅は、近鉄とJRの構内は隣接しているが駅舎はそれぞれ独立している。名古屋や大阪に向かう特急が頻繁に発着する近鉄駅は観光客で賑わっている一方、JR駅は比較的閑散としている。
曲線状の屋根が特徴的なホーム上家。起点方の柱に付けられている建物資産標によると、1950(昭和25)年築とのこと。ちなみに、この”41-1003”のコード番号の意味は、”41”が「旅客上家」の名称コード、”1003”は建物毎に付番されている財産番号である。
17:31、名古屋からの快速「みえ15号」が2分遅れで到着。折り返し、17:35発快速「みえ24号」となる。
鳥羽を定時発車。夕暮れの海を眺めながら名古屋に向かった。
感想
今回この「志摩MaaS」を実際に利用してみて一番感じたことは、デマンド交通の可能性についてである。どちらかといえば過疎地の住民専用の交通手段として認知されやすいデマンド交通であるが、オープンな仕組みを確立し、他の交通手段と有機的に結び付けることによって、誰もが定期バス・定期船と同等か、それ以上の利便性を享受することができる。
まだ実験の段階であり、システム的にも改善すべき点(復路便の同時予約や前日予約が不可、地図に路線が描かれていないので分かりにくい等)はあるが、更なるブラッシュアップを行った上で本格導入を期待したい。
近年注目されつつある「Maas」という概念。各地で取り組みが始まっているが、今一番気がかりな点はプラットフォームの乱立である。
過去のブログで何度も申し上げているが、交通は”普遍性”が命。個別最適が全体最適の足を引っ張るようでは本末転倒である。
長年分断が続き利便性が損なわれていたIC乗車券の二の舞にならないよう、全国的な普及に向けて国がしっかりとかじ取りを行うべきであると思う。
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