1999年12月のBTS(スカイトレイン)開業以来、年々発展を続けるバンコクの都市鉄道。今回は未乗であったタイ国鉄(SRT)近郊電車を中心に、現状と今後の発展の方向性を探るべくショートトリップを楽しみました。その様子を詳しくお伝えします。
クルンテープ・アピワット中央駅の様子
タイ国鉄の新ターミナル、クルンテープ・アピワット中央駅は今回初訪問。ただただデカいというのが最初の印象だ。


元々はチェンマイ方面に向かう北本線と、ハジャイ方面に向かう南本線が分岐するジャンクション、バンスー駅があった場所。優等列車とSRT近郊電車は新ターミナルを発着するが、一部ローカル列車は地上に残された在来駅を発着している。

駅周辺は道路しかなく、日本や欧州などの賑やかなターミナル駅を想像してはいけない。東口側も状況は同じ。

地下にはMRTブルーラインが乗り入れている。改札口から地下通路を経由して直接コンコース内に繋がっているが、やや歩かなければならないので、タクシーか路線バスでのアクセスの方が楽だ。路線バスは東口と西口にバス停があるが、運行経路は複雑なので旅行者がスムーズに乗りこなすのは難しい。



1階はコンコースになっており、移動だけでも大変なほど広い。南端から北端まで歩くと5分以上かかってしまうほど。


MRT乗り換え口がある南側には売店や飲食店などの店舗はほとんど無い。セブン-イレブンの自販機が一番目立っている。

北側は長距離列車の利用客が多く、こちらの方が賑やか。売店やフードコートなどの商業施設もある。


SRTダークレッドラインに乗車
さて、ここからSRT近郊電車に乗車する。現在は2路線で、当駅を起点として北本線方面(終点ランシット)に向かうダークレッドラインと、南本線方面(終点タリンチャン)に向かうライトレッドラインがある。将来的には当駅から南のフアランポーン方面に延伸する計画がある。

運行間隔はダークレッドラインが朝晩10分ヘッド、日中15分ヘッドで、ライトレットラインは終日20分ヘッド。早朝5時から深夜0時までの運行。

チケットは自動券売機または窓口で購入するが、クレカのタッチ決済での乗車が便利だ。


タッチ決済で乗車する場合は、専用の自動改札機を通る。日本で発行したVISAクレカがそのまま使えた。

発車標も完備。ちょうど13時発のランシット行きとタリンチャン行きが同時に発車してしまった。

次の13:15発ランシット行きに乗ってみることにする。とりあえず乗り場の3番ホームへ。

高架ホームだがさらに上階がある。3層構造で最上階は2025年現在未供用。将来的には高速鉄道などが乗り入れる予定とのこと。最上階に行く階段があるが、もちろん現在は封鎖されている。


13:04に電車が入線してきた。6両編成の日立製1000系電車だ。前面にタイ国鉄のマークが誇らしげに描かれている。

車内は当然日本の電車に似ているが、座席はプラスチック製でアジアンな雰囲気。ドア上の鴨居部には液晶モニターが付いている。


13:15、定刻に発車。時間帯が悪いせいか、空席が多く乗車率は低い。

電車線設備は日本製だろう。車両に限らず、全体的に日本の都市鉄道に雰囲気が似ているが、信号機はタイ式。


ダイナミックな土木構造物が目を引く。長距離列車と並走するが、こちらはまだ電化されていない。


速度はかなり速い。Wikipediaでは最高速度145km/hと書かれているが、スマホのGPS速度計測でも軽く130km/h以上は出ている様子。
空港連絡駅のドンムアンに到着。アピワット方面行きのホームには空港から来た旅行者らしき乗客が大勢いた。

アピワットから約25分ほどで終点のランシットに到着した。ここまで乗ってきた乗客は少ない。


ランシット駅の様子
ランシットはバンコク都の北隣にあるパトゥムターニー県に位置する。駅周辺は住宅街で、特に観光スポットがあるわけではないが、南に10分ほど歩くと小規模な市場がある。

接続するバス路線は無く、北に向かう6188番のソンテウがあるのみ。前述の市場の隣にあるランシットバスターミナルからは各地に向かうバスが出ている。

日本のODAにより供与された旨のプレートが掲げられている。

当駅はアユタヤ、チェンマイ方面に向かう北本線の主要駅でもあり、近郊電車の他に特急・急行などの長距離列車も全列車停車する。コンコースには長距離列車用の出札窓口、売店や自販機などがある。



モノレール ピンクラインに乗車
先ほど乗ってきたダークレッドラインで折り返し都心方面に戻るが、途中で乗り換えて、バンコクに2路線あるモノレールの一つ、ピンクラインに乗車してみることにする。2024年1月に開業したばかりの路線で、バンコク北部を東西に結んでいる。
乗り換え駅であるラックシーで下車。ホームには警備要員が配置され、敬礼で列車を見送る。

改札口を出て、乗り換え案内標識に従って移動する。

振り返ってSRTの駅を見る。地上にも線路があるが、長距離列車も高架線を使用するので既に使われていない様子。

幹線道路を横切る長い連絡橋を渡り、一旦地上に降りる。

横断歩道を渡ると駅の入口だ。

有人窓口と自動改札機が並ぶ様子は通常の鉄道駅と同じ。他のMRT路線と同様、クレカのタッチ決済による乗車が可能。


ホームドアが完備されている。液晶モニターの発車標にはプロモーションビデオが流れていた。日中は10分ヘッドでの運行。


ホームから東側を見ると隣のラチャパットプラナコーン駅が見える。程なくして列車がやってきた。4両編成の跨座式モノレールだ。


ここから西の終点であるノンタブリーシビックセンターまで乗車する。車内はやや混雑していたが、しばらくすると空いてきた。乗っている感覚は日本の跨座式モノレールとほぼ同じ。

左手にパープルラインの高架が見えると終点のノンタブリーシビックセンターに到着する。

MRTパープルラインに乗車
ここからMRTパープルラインに乗り換える。バンコク市内から北に隣接するノンタブリー県に延びる路線だ。この路線も2016年8月開業と比較的新しいが、モノレールではなく通常の鉄車輪方式が採用されている。
モノレール駅のホーム端からパープルラインの駅方面を眺める。両駅間はやや離れているのが分かる。

両駅間を結ぶ長い連絡通路が延びている。乗り換え客の利便性を考慮し、動く歩道が設置されているのがGOOD。


5分ほどでパープルライン駅に到着。有人窓口と自動改札機が並ぶ様子は他の路線と同じ。こちらもクレカのタッチ決済が利用可能。

こちらにもODAプレートが掲げられていた。

エスカレーターを昇りホームに着くと両方向の列車が同時に入ってきた。

バンコク市内方面に向かう列車に乗る。

3両編成の列車はパラパラと立ち客がいる程度に混んでいた。夕方の都心方面に向かう需要もそれなりにあるようだ。なお、この車両はJR東日本の子会社「総合車両製作所(J-TREC)」の製造で、山手線で使用されているE235系などとは兄弟の関係にある。

SRT近郊電車ライトレッドラインとの乗り換え駅であるバーンソーンで下車。高架であるSRTの線路と高速道路をオーバークロスする必要性から、パープルラインの線路はかなり高い位置を通っている。

SRTライトレッドラインに乗車
今回の小旅行の締めくくりはSRT近郊電車ライトレッドライン。スタート地点のアピワットまで戻る。
パープルラインのホームから案内表示に従って移動する。


乗り換え用の連絡通路が整備されており、両駅間の距離も近いので乗り換えは容易だ。

乗り換え通路からは高速道路高架下にある市場が見える。時間があれば立ち寄ってみるのも面白い。

高速道路に平行して地上を走る南本線在来線の線路とレッドラインの高架が走っている。


レッドラインの改札は1階なので一旦地上に降りる。


隣接して地上の在来線にもホームがあるが、こちらには朝の通勤列車1本しか停車しない。

ホームは閑散としている。パープルラインとの乗り換え客はまだまだ少ない様子。というのも、パープルラインの一つ隣の駅、タオプーンでは都心直結のMRTブルーラインと接続しており、そちらの方が圧倒的に利便性が高いからだ。

しばらくすると、下り方面の線路にアピワット発タリンチャン行きの列車が入ってきた。ダークレッドラインの6両編成に対し、こちらは4両編成の2000系電車(日立製)だ。運転士の動作を観察すると、発車時にちゃんと出発信号機を指差確認している様子が見えた。いままでのタイ国鉄には考えられない進化だ。

やがて反対方向からアピワット行きの列車が来た。

僅か1駅間の乗車でアピワットに到着。降りた乗客は数えるほどであった。

感想
今回乗車した4路線はいずれも延伸の計画があり、また新規路線との接続も予定されているが、工事の遅れも伝えられ、本領を発揮するのはもう少し先の話になりそうだ。各構造物の設計には余裕が見られるため、更なる輸送力の増強も容易であると推察される。
一方で、路線間の乗り換えの不便さは相変わらずバンコク都市鉄道網のウィークポイントとなっている。構造上致し方無い部分もあろうが、乗り換え客の利便性確保にもう少し配慮が欲しい。また、交通モード間(鉄道・バス・船)の有機的な連携も不足しており、まだまだ改善の余地が大きい。事業者・管轄官庁間の”縦割り”が日本以上に酷いというのが実感だ。
国際的大都市にふさわしい交通体系の構築に期待したい。
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