列車を乗り継いで台湾を一周しました。限られた日程の中で非常にタイトな行程でしたが、普通列車から高速鉄道まで様々な種類の列車に乗ることができました。
ハイライトは唯一残る南廻線の旧型客車列車。昔の日本の”汽車旅”の雰囲気を楽しむことができます。
鉄道マンの視点から、日本の鉄道との類似点、相違点なども紹介していきます。
乗車データ
乗車区間 | 台北-台中 | 新烏日-彰化 | 彰化-台南 |
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事業者 | 台湾高速鉄路 | 台湾鉄路管理局 | 台湾鉄路管理局 |
列車番号 | 141 | 区間2203 | 莒光561 |
車両形式 | 700T | EMU700 | FPK10400 |
乗車時間 | 47分 | 10分 | 2時間40分 |
運賃 | 700NTD | 14NTD | 174NTD |
台湾の鉄道について
台湾の都市間幹線鉄道は、日本の新幹線に相当する高速鉄道を運営する「台湾高速鉄路」と、在来線に相当する路線を運営する「台湾鉄路管理局」がある。
台湾高速鉄道の概要
台湾高速鉄路(略称:高鉄)は2007年に開業した最高速度300km/hの高速鉄道。台北市の南港駅から高雄市の左営駅を結び、路線延長は348.5km。
高速鉄道としては世界で初めて、民間の資金を活用する”BOT方式”にて建設された。運営事業者は「台灣高速鐵路股份有限公司」、台湾証券取引所に上場する純民間企業である。
車両はJR東海の700系新幹線をベースとした”700T型”。設備はドイツ、フランスの技術も導入されており、技術混合型の鉄道システムである。
台湾鉄路管理局の概要
台湾鉄路管理局(略称:台鉄)は、中華民国交通部に所属する鉄道事業体で、いわゆる”国鉄”にあたる。
台湾島を1周する幹線と付属する支線を合わせ、路線総延長は1088.7kmにのぼる。
ルーツは日本統治時代の「台湾総督府鉄道」。そのため、レール幅や車両の大きさなど、各規格は日本のJRと似ている。
車両は日本製、韓国製、南アフリカ製、イタリア製など様々である。
台北駅の様子
旅の起点は台北駅(台北車站)。台湾の首都台北市の中心部にあり、台湾を代表する駅だ。
当駅は高鉄と台鉄の併設駅で、いずれも線路は地下2階にある。改札口は地下1階。
駅舎自体は6階建で、1階に台鉄きっぷ売り場、売店などがあり、2階は主にレストラン、3階以上は台鉄本部のオフィスとなっている。
構内はやや複雑だが、分かりやすい案内サインや構内図が設置されている。
中央部には吹き抜けの大きなコンコースがあり、なかなかダイナミックな造りだ。
駅構内の主要施設は1階と地下1階に集中している。1階中央部には前述の通り台鉄のきっぷ売り場・券売機がある。また、鉄道案内所や郵便局なども設置されている。
地下1階には、改札口の他に高鉄きっぷ売り場・券売機がある。またコインロッカーはこのフロアに点在している。
コインロッカーはサイズにより料金が異なる。一番小さいタイプで3時間毎に20NTD。使い方は簡単で、日本語による案内表示もある。
台湾も日本と同様駅弁文化が発達している。地上1階と地下1階には駅弁販売所が複数設置されている。
また、ここ台北をはじめ、主要駅には「台鉄夢工場」という鉄道グッズショップがある。
台北駅には台北捷運(地下鉄)2路線も乗り入れている。捷運のホームは地下4階、改札コンコースは地下3階にあり、台鉄・高鉄の乗り換え用きっぷ売り場・改札もある。
他に、空港鉄道「桃園捷運機場線」の駅もあるが、台北駅西側のやや離れた場所にある。
台北駅は中長距離バスの拠点にもなっている。駅舎に隣接して「国光客運台北車站」、道路を隔てたビル内に「台北転運站」の2箇所のバスターミナルがあり、いずれも地下1階の改札コンコースから連絡通路が設けられている。
市内バスの乗り場は駅周辺に点在している。駅舎から離れた場所にある乗り場もあるので、利用する際はよく確認する必要がある。
発券
さて、乗車前にあらかじめ予約しておいた列車の切符を発券しなければならない。
予約は台鉄、高鉄とも各公式サイトでで簡単に行える。決済はクレジットカードが使えて便利。
なお、台鉄は「台鐵e訂通」、高鉄は「T Express」というスマホのアプリをインストールすると、QRコードをダウンロードすることでチケットレスでの乗車も可能だ。
高鉄、台鉄はそれぞれのきっぷ売り場または券売機での発券となる。
JRの新幹線と在来線の関係とは大きく異なり、両社は全く別の事業者で、いわば”商売敵”に当たるため、全てが厳密に分けられている。台湾の公共交通は、バスも含めて日本以上に”事業者縦割り”の意識が強いように感じる。
ネットで予約した決済済みのものは、券売機で予約番号と予約の際に登録したパスポート番号を入力することで簡単に発券できた。わずか数分で終了。
台湾高速鉄路に乗車
第一ランナーは高鉄141列車。高鉄台中駅まで向かう。台北15:31発で台中16:18着、159.8kmをわずか47分で結ぶ。
車内へ
地下1階の改札口へ向かう。前述の通り、高鉄と台鉄は改札も完全に分離されており、乗り換え改札は存在しない。
自動改札機にきっぷを投入し入場。券面にはパンチ穴があけられる。
改札内には待合のベンチ、トイレ、売店(ファミリーマート)がある。狭いスペースを有効に活用しようとする苦労がうかがえる。
早速ホームへ。構内はホーム2面、線路4線の構造。ホームは狭い上に人が多く窮屈な感じだが、ホームドアが設置されているので安全性は確保されている。
乗車する141列車左営行は1A乗り場から発車する。乗り場番号の振り方は日本と異なり、ホーム毎に数字が振られ、島式ホーム(両側に線路があるタイプ)はA・Bで区別される。
同じフロアの台鉄ホームが見える。ちょうど区間車(普通列車)が発車するところ。
15:28、南港始発の141列車が到着。指定された2号車に乗車する。ホーム天井から下げられている数字の案内板は”番線表示”ではなく”号車表示”なのにやや戸惑う。
普通車の座席は新幹線と同じ横2-3列。車内の様子は新幹線そのものだ。
シート背面にはテーブルが設置されている。車内設備の案内図も掲示されている。シートポケットには「TLife」という車内誌も。
台北から台中へ
15:31定時発車。台北発車時の乗車率は7割程度。平日午後の下り列車はこんなものか。
最初の停車駅、板橋に到着。ここで大勢の乗車があった。板橋発車後の乗車率は9割程度、ほぼ満席に近い。
すぐに地下区間から地上へと出る。淡水河の支流、大漢渓を渡るとスピードを上げていく。
高速走行時の乗り心地は上々。日本の新幹線と変わらない。逆にカーブの最小半径が6,250m
(一部5,550m)となっているので、東海道新幹線(最少2,500m)のような強い遠心力を感じることは無い。
停車パターンは複数ある。この141列車は最も速い”直達車”といわれるパターン。東海道新幹線の「のぞみ」「ひかり」「こだま」といった愛称は付けられていないが、列車番号の百位の値で区別できる。
列車は雨模様の中を快調に南下する。人口の少ない山手を走るのでトンネル区間が多い。
左手に台中中心部の高層ビル街が見えると台中に到着。16:18定時だ。
かなりの乗客が下車する。乗降客数は台北に次いで2番目に多いとのこと。
台中で高鉄から台鉄に乗り換え
高鉄台中駅の様子
台中駅はホーム2面、線路6線の大きな駅。真ん中にホームの無い通過線があるが、現在のダイヤでは通過する旅客列車は無い。
3階のホームから2階のコンコースに降りる。狭い台北駅は異なり広々としていて開放感がある。
自動改札機にきっぷを投入し出場する。きっぷは回収されずに出てくるので取り忘れないように。
構内は土産物等の店舗が多く賑やかだ。飲食店も豊富で、よく見慣れた日系チェーン店が多い印象。
さて、ここから在来線の台鉄に乗り換える。この高鉄「台中駅」は台鉄台中線(西部幹線山線)との接続駅だが、台鉄の駅名は「新烏日駅」。実は台鉄「台中駅」は別の場所にある。このように、高鉄と台鉄でそれぞれ全く同じ名前の駅が全然別の場所にあるという例が多く、慣れない人には非常にわかりにくい。
連絡通路
高鉄と台鉄の駅は連絡通路で繋がっている。案内表示に従って進めば迷うことは無い。屋内なので雨風の日も安心だ。
わずか1~2分で台鉄構内に入る。基本的に平面移動で、高低差がある所も動く歩道が設置されている。
台鉄新烏日駅の様子
台鉄構内に入ってすぐ左手には「台鉄故事館」という大きなグッズショップがあった。記念品や玩具など商品の種類も多く見ていて楽しい。古い鉄道用品も展示されており、ちょっとした博物館的な雰囲気。
台鉄コンコースも広々としているが、店舗が多い高鉄構内に比べてやや殺風景な印象。
コンコース内に昔の駅の展示スペースがあった。中にはタブレット閉塞器の展示物も。かつて台鉄で実際に使われていたものだが、形は日本のものと全く一緒。
改札口には自動改札が設置されている。台鉄は全線で「悠遊カード」等のIC乗車券が利用可能。台鉄は運賃1割引となりお得で便利だ。
区間車で新烏日から彰化へ
新烏日から彰化までは普通列車に相当する「区間車」に乗車。次の発車は16:35発の2203列車嘉義行き。発車標には3分遅れとの表示がある。
当駅は優等列車が頻繁に通る西部幹線の駅であるが、停車する列車はほとんどが区間車だ。列車本数は行先や時間帯にもよるが、概ね1時間に3~4本程度。30分以上間があく時間帯もあるので予め時刻は確認しておいた方が良い。
ちなみに台中市街中心部にある台鉄台中駅までは4駅、所要時間は区間車で11分程度。
地表にあるホームに降りる。エスカレーターは無いがエレベーターは設置されている。
構内はホーム2面、線路4線の比較的小規模な駅。高鉄開業に合わせて乗換駅として新設されたので、全体的に設備は新しい。
ちょうど反対側の上り線には台中行の区間車が入線してきた。韓国大宇製のEMU500型電車だ。
上り列車と入れ違いに、下り2203列車が予定通り3分遅れで到着。日本製(一部台湾製)のEMU700型電車である。特徴的な前面デザインから、台湾の愛好者からは「スネ夫号」と呼ばれている。
列車は長い8両編成であるが、ちょうど夕方のラッシュに差し掛かっているためか、車内はやや混雑している。
隣の成功を発車後、右手に連絡線を分岐、更に西部幹線海線が合流する。西部幹線はこのあたりで”山線”と”海線”の2ルートに分かれており、列車案内上もどちらのルートを通るか明記されている。
右手に機関区(機務段)が見えると、彰化に到着する。
彰化は古くから鉄道の要衝として栄えた街。現在も当駅始発終着の列車が多数設定され、運転上の重要な駅となっている。
構内は広く、日本の幹線主要駅と似た雰囲気がある。先ほど車内から見えた機関区には日本統治時代に建てられた扇形車庫が残されており、曜日・時間を限って一般見学することも可能。
先ほど乗ってきた2203列車が嘉義に向けて発車する。台鉄ではほとんどの運転取扱駅で助役(副站長)による列車扱いが行われている。時刻を確認し出発信号機(出發號誌機)の現示を指差喚呼、十数秒間電鈴を鳴らして乗降終了を確認、車掌に向け絞った赤色旗(夜間は白色灯)を円型に回し閉扉合図、車側灯の滅灯を指差喚呼、再度信号現示を確認の上、運転士に向け緑色灯の合図器で出発合図(出發號訊)といった手順。国鉄時代の日本を思い出させる情景だ。
上りホームには偶然にも、しなの鉄道色のEMU500型が停車していた。同鉄道と台鉄は友好協定を結んでいる。
莒光号で彰化から台南へ
本日最終ランナーは17:12発の莒光号561列車。約10分の遅れとのこと。ホームは学校帰りの学生が大勢列車を待っている。
莒光号は日本の急行に相当する優等列車だが、停車駅も多く運賃も比較的安いため短距離利用客も多い。
途中で回復したのか、約5分遅れで到着。アメリカGE製のE300型電気機関車が牽引する客車列車だ。
1両2箇所の扉に乗客が押し寄せる。これは通勤通学輸送に使う車種ではない。
指定された8号車に乗車するも、通路もデッキも超満員。座席は確保してあるが、指定された席に行くことすらできない状態だ。しばらく寿司詰めの状態で我慢を強いられる。
次の停車駅、員林でようやく席にたどり着いた。座っていたおじさんに切符を見せて席を空けてもらう。
列車は停車駅毎に徐々に空いてくる。社頭に停車すると通路も大分余裕が出てきた。
座席は回転リクライニングシートで、日本の特急車両とほぼ同じ。
列車は夜の西部幹線をひた走る。最高速度は100km/hであるが、数分おきに停車していくので彰化-台南間142.3kmに2時間半以上かかる。
乗降に時間がかかったため11分遅れの20:00、台南に到着した。
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